遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

「ジャック・ライアン」シリーズ

私は神に祈る、この館と、ここに今後住むすべての者に、
最高の祝福を授け給えと。
願わくは、
誠実な賢者のみがこの屋根の下で国を治めんことを。
アメリカ合衆国第二代大統領、ジョン・アダムズ
ホワイトハウス入居にあたって妻アビゲイルに書き送った1800.11.2付手紙)

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年末から本をまとめ読みしていた。

ダヴィド・ラーゲンクランツ著『ミレニアム6 上・下』早川書房 2019年12月
トム・クランシー著『日米開戦 上・下』新潮文庫 1995年12月
マーク・グリーニー著『機密奪還 上・下』新潮文庫 2017年4月
マーク・グリーニー著『欧州開戦 1・2・3・4』新潮文庫 2018年5月
マーク・グリーニー著『イスラム終戦争 1・2・3・4』新潮文庫 2019年6月

今回は『ミレニアム6』、再読の『日米開戦』以外の本について書いておきましょう。

ご存じ『レッド・オクトーバーを追え』(1985年)以降のトム・クランシー著作の「ジャック・ライアン」シリーズは、2013年10月にクランシーが亡くなった後、マーク・グリーニーが引き継いで書いてきた。

米国で2018年8月にドラマ化(『CIA分析官ジャック・ライアン』)されて配信開始となったようだが、筆者はまだ見ていない。

CIAの情報分析官からスタートし、分析官の枠を超えた行動は、映画化もされているから、この小説の魅力をご存じの方も多いと思う。

ホワイトハウスを含め、CIA、FBI、国防総省などいわゆる「情報コミュニティ」の世界と、世界の平和を脅かすものたちとの格闘を描いている。もちろん、アメリカの正義とやらが主軸となるのだが、現場で働く者たちへ作者なりの敬意溢れる真摯な眼差しがある。

その国の崇高な価値を信じ、その為に公職に就いた者たちにとって義務を果たすとはどのようなことなのかを思い読んでいると、日本の出来事と対比してしまい、なんとも言えない気持ちにはなる。

勿論アメリカにおいてだって、この小説が描く世界はあまりに理想化されて描かれていることもあるだろうが、しかしそれでも、現実と対比されるべき理想像がなければ、わが身を鏡に映すことすらできないだろう。

その意味で私たちは、国家を動かす人々のあるべき姿の典型例をこの小説にみることも可能だろう。しかも、背景となる世界情勢は多くの部分で、現実と重なり合っているだけによりリアリティがある。

『機密奪還』

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この小説は、「ジャック・ライアン」シリーズの外伝ともいうべき小説となる。
主人公は、民間情報機関「キャンパス」の工作員ドミニク・カールソー(ドム)。
彼のほぼ単独での冒険を描いたものだ。

世界には合法、違法の他にグレーな部分が存在する。合法であることに厳格であれば、犯罪者は逃れてしまうこともある。それが世界の平和にかかわる事態なら、平和に責任を持つ国家はどうするのか。
ここに、ライアン構想の民間情報機関「キャンパス」設立の動機がある。

その工作員ドムがインドで武術の修行中に、その師である元イスラエル国防軍大佐一家が何者かに襲われ殺されるところから物語は始まる。

ライアンシリーズの主要なキャラクターには他にジャック・ライアン・ジュニア、伝説の元CIA工作員ジョン・クラークなどがいるが、ドムもまた主要なキャラクターで、元FBI捜査官だが、何故か書類上の身分はFBIに残っている。
ハラハラ、ドキドキの冒険活劇は間違いなく読者をつかんで離さないだろう。

『欧州開戦』

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原油価格が下落してロシアは経済的に追い詰められていた。
ロシア経済の下落は、ロシアを牛耳る者たちの没落でもある。自分たちが儲けるために国家の経済があり、それが上手くゆかなければ、彼らのコミュニティの長である大統領の地位も安泰と言う訳にはいかなくなる。

ある日、バルト海リトアニアのガス貯蔵所が爆発された。ベラルーシからリトアニアを通ってロシアの飛び地への鉄道列車が何者かによって砲撃を受けた。そして、ロシア原潜がバレンツ海へ密かに出航した。

次々に起こる事件を「キャンパス」が追い始める。
果たして、ロシアの目論見は何か。
NATO軍は動かず、小国リトアニアはロシアの侵略を撃退できるのか。
ここに、ロシアとアメリカ・リトアニアの戦端が切って落とされる。

イスラム終戦争』

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世界各地で関連がないと思われる工作員や軍人が襲われ始めた。
彼らのあまりにも詳細な日常が、なぜ知られたのか。

ISのテロリストが、アメリカに入り込み具体的なターゲットを狙って、次々とテロ事件を起こしていく。
情報漏れのルートを追うジャック・ライアン・ジュニアらキャンパス、アメリカ国内でテロリストを追うドムとアダーラ、新しいメンバーも加わって、真の黒幕を明らかにできるのか。

とまあ、ネタバレしない程度にご紹介したのだが、残念なことにマーク・グリーニー版の「ライアン」シリーズは、この小説で最後になるようだ。
通常、オリジナル作家の後を受け継いで書かれたものは、いささかレベルダウンするものだが、「ライアン」シリーズは、全くそれを感じさせない。

マーク・グリーニーがトム・クランシーの共著者として書いたのは『ライアンの代価』から3作、トム・クランシーが亡くなってからは『米朝開戦』から『イスラム終戦争』まで4作を単独で書いてきた。

その筆力は、クランシーと遜色ない。ストーリーの展開はむしろグリーニーが上回っていると感じられる部分がある。恐らくこうしたことは稀有なことだろうと筆者には思われる。

マーク・グリーニー版は終了となるが、「ライアン」シリーズは他の作家で続くという。新刊が出たら、また読むんだろうなと思う。

最後に、「ジャック・ライアン」シリーズ著作一覧を載せておきましょう。
発行年は、日本での発行年です。

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クランシーの他の(共)著作も多数あるが割愛した。

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