光回線とWi-Fiルーター
いたずらに起きることは何もなく、
すべては理由と必然によって起きる。
(BC5~BC6頃のギリシャの哲学者レウキッポス)
人の価値は、何も起こらない時間、平凡な時間を、
どのようにすごすかによって決まる。
(宮城谷昌光『三国志11』文芸春秋2012年)
以前の記事で、コンピュータ性能の要素には、①CPU、②メモリー、③ディスクIO、④通信があると書いた。
これはコンピュータ処理におけるハード条件と言ってよく、それなりに①~③をPC側で用意すれば、後はOSや他のアプリケーションソフト、稼働環境のメンテナンスにPCの性能は依存することになる。
しかしインターネットの時代、ネットワークの性能が悪ければ、いくらPCがそれなりでもトータルな情報処理能力は落ちてしまう。40年前のネットワークにはメタル回線の通信速度200bpsというネットワークがあったくらいだが、今や多くの家庭で1Gbpsの回線契約をしていることを考えれば、隔世の感がある。もっとも「契約1G」といっても、そのままのスピードが出ることはなく、通信環境によっては20Mbpsくらいの実効速度しか出ない場合もある。
最近、「Wi-Fi6」というIEEE802.11ax(略して「11ax」)規格のWi-Fiルーターが出始め、それに対応する端末機器も増えていくと思われる。
筆者の通信環境は、プロバイダー契約「光コラボ1G」、ルーター「11n」(Wi-Fi4)なのでごく一般的な環境だと思う。
この環境でもほぼ問題はなく、時々動画やソフトのダウンロードが遅く感じる時もあるが、Webサイトを参照する分には大体においてストレスを感じることはない。
とはいえ、ルーターくらい「11ax」はまだ早いにしても、PCは11acが対応できるので、せめて「11ac」(Wi-Fi5)を使いたい。それに今稼働しているルーターは5GHzが使えないのだ。
ということで、いろいろ通信の復習をかねてどんなルーターにしようか調べ出した。
ルータを選ぶと言っても、「光コラボ」のことをいろいろ知らないと選択を誤る場合もある。例えば、買ったルーターが「IPv4 over IPv6」対応でなかったら、適切な速度を得られないことだってある。
ということで、先ずは「光コラボ」のネットワークから見ていこう。
【光コラボ(光コラボレーション)】
・NTTが、光回線「フレッツ光」サービスの卸売りを行い、プロバイダーが仕入れて自社サービスとして一括してインターネット接続サービスを提供・販売するサービスを「光コラボ」と呼んでいる。
コラボ事業者には、ドコモ、OCN、Nifty、ソフトバンクなど、いわゆるプロバイダー各社がある。
・従って、こうしたサービスのネットワークの実態はNTTの「フレッツ光」のネットワーク(NGN)そのものである。
・但し、電力系(auひかり等)、CATV系(J:COM等)、NURO光は、このネットワークとは無関係で、別の独自のネットワークになっている。
(図-1)光コラボのネットワーク通信
先ずは、上記ネットワークの用語の説明を簡単にしておきましょう。
PPPoE(Point-to-Point Protocol over Ethernet)
電話回線を前提とした伝送規約であるPPPをイーサーネット(*1)へ応用した接続方式。
(*1)イーサーネット;ネットワークやコンピューター間の有線LANの通信規格。
IPoE(Internet Protocol over Ethernet)
インターネットで情報を送受信するための基本的な伝送規約。
イーサーネットで、直接インターネットに接続する接続方式。
IPoE方式は、初めからイーサーネットを通信に使う前提で開発された。
IPoE方式で使用できるIPアドレスはIPv6(下記参照)のみ。
IPアドレス
通信相手を特定するための識別子(住所)。
・IPv4;IPアドレスとして約43億(2の32乗)しかなく、IPアドレス枯渇問題が起きた。
・IPv6;IPv4枯渇問題を解決し、約340澗(かん)(2の128乗)のアドレスが用意。
VNE事業者
NGNにIPoE接続を行い、プロバイダーにエンドユーザへのIPv6接続機能を卸提供する事業者をVNE(Virtual Network Enabler)事業者という。
(表-1)プロバイダーとVNE事業者の対応表(一部)
「光コラボ」に関わる用語を押さえたうえでもう一度(図-1)を見てみましょう。
【インターネット接続方式とIPアドレス】
インターネット接続経路は、接続方式とIPアドレスによって(図-1)の通りになる。
・プロバイダー、ルーターがIPoEに非対応ならIPv4、IPv6は①の経路
・IPoEに対応でも、IPv4 over IPv6(*2)非対応ならIPv4は①、IPv6は②の経路
・IPv4 over IPv6に対応していれば、IPv4、IPv6とも②の経路
(*2)IPv4 over IPv6;IPv6通信で、IPv4を用いたインターネット通信ができるように考えられた技術。ブロードバンドルータで、IPv4のパケットデータをIPv6に変換して通信を行う。通信先のWebサイト、WebサービスへIPv4に再変換されて到着。
【NGN網の伝送形態の変遷】
NTTが敷設した光回線のネットワークは、通信方式によってIPパケットの経路が異なる仕組みになっている。
NGNは、もともとの電話網の伝送規約PPPをイーサーネットに適用したネットワークだったが、IPアドレスであるIPv4が枯渇するという問題があった。
一方、NGNには網終端装置というのがあり、利用者からのネットワークデータはここを経由して複数のプロバイダーへ渡される。従ってこの網終端装置にデータが集中するために通信データが滞留し、それが通信遅延の大きな原因となっていた。
IPアドレスの枯渇問題をIPv6で解決し、通信データが集中するNGN網終端装置を通らずに、IPv6しか適用されないIPoEという接続方式が生まれたことによってIPv6は網終端装置を通過しなくてよくなり、通信遅延は改善された。
しかし、せっかくIPoE方式が出来ても、IPv4はIPoE方式では通信できず、相変わらず網終端装置がネックになることに変わりなかった。そこに、IPv4をIPv6に変換して網内をIPoE方式で通信させる「IPv4 over IPv6」という技術で、ようやくIPv4、IPv6ともにIPoE方式で通信ができるようになった。
こうした事情が、現在の「光コラボ」のネットワーク通信形態に反映している。
IPv4/PPPoE、IPv4 over IPv6は、将来的にはIPv4アドレス枯渇によって使われなくなり、IPv6/IPoEに取って代わられる過渡的な通信と言っていい。
【「IPv6/IPoE、IPv4 over IPv6」通信を行うための作業】
では、効率的なIPoE方式で通信するために何をすればいいのでしょう。
・プロバイダーで、「IPv6/IPoE、IPv4 over IPv6」が通信できる契約にすること。
・ONUの設定は「IPv6パケットフィルタ設定」を「無効」にすること。(*3)
これが「有効」になっていると、IPoE方式で通信できないようセキュリティがかかり、
PPPoE方式の通信になってしまう。
・ルータの設定では「IPv6設定」を確認し、「無効」なら「有効」にする。(*4)
・海外製のルータには、上記日本の通信事情など分からずに生産・販売されているものもあるので、そうしたルーターは「IPv4 over IPv6」非対応である。
こうしたルータの場合、いくらプロバイダーが対応していてもIPv6/IPoE、IPv4/PPPoEという2形態の通信となるから注意が必要だ。
・メーカーのHPにはルータの製品情報が載せてあるので、IPoE対応か否かを確認するといい。但し、「IPv4 over IPv6」と正確に書いてないこともあるので、メーカーに問い合わせた方がいい。
恐らく、これに対応していなければ、IPv6/IPoEだけではIPoEのメリットが生かせないので大概は対応していると思われるのだが、メーカーで稼働を保証していない場合もある。
(*3)ONUへはLANケーブルでPCを接続、IEのブラウザから「http://ntt.setup/」でONUに入る。
(初回ログイン時のみ)「機器設定用パスワード」登録⇒設定
「(ユーザ名)user」「(登録したパスワード)」⇒OK⇒「設定ウィザード(利用タイプ)」を無視。
左メニュー「詳細設定」選択⇒「IPv6パケットフィルタ設定」(又は「セキュリティ設定」)選択
「IPv6ファイアウォール機能」(又は「セキュリティモード」)を「無効」にして設定。
(*4)ルータには有線・無線でIE「アドレスバー」にルータ固有アドレスを入力して入る。
最初に「(ユーザ名)user」「(パスワード)user」⇒OK
「詳細設定」⇒「IPv6設定」が「有効」であることを確認(「無効」なら「有効」にする)
ポート別IPv6設定一覧の「サービス選択」が「IPv6インターネット」であることを確認
⇒(「無効」から「有効」に変更した場合は「設定保存」⇒)OK(⇒設定を有効にした場合は再起動)
ここまでで、NGNを通る通信がIPoE経由となり、網終端装置がネックになることはないので、一度速度を計測してみるといい。
以前筆者が計測した場合では、ルーター(11n)有線接続で約100Mbps、Wi-Fiで57~60Mbpsくらいだった。
まあ、決して速くはないが、20Mbpsのレベルではないから速度改善は急がなかった。
但し、PCでの「リンクアップ速度」(*5)は、130Mbpsだったので、ルーターを11acにするなどすれば速度向上は図れるだろうと思っていた。
因みにPPPoEだけの通信の場合は、Wi-Fi接続で37Mbpsほどだったので、IPoEは確実に速くなると言えるだろう。
(*5)リンクアップ速度;LANアダプターやケーブルなどのデバイスが実現しうる理論上の最大速度。
・「コントロールパネル」⇒「ネットワークとインターネット」⇒「ネットワークの状態とタスクの表示」⇒「Wi-Fi」をクリックすれば速度が参照できる。
・又は「設定」⇒「ネットワークとインターネット」⇒「Wi-Fi」⇒「アダプターのオプションを変更する」⇒「Wi-Fi」をクリックでも参照可。
光回線には、「光コラボ」以外に下記のようなものがある。
auひかり回線
いわゆる電力系の光回線なので、NGNとは別の独自ネットワークになり以下の特徴がある。
・関東圏は、独自の光ファイバー網のネットワーク。
・関西、中部エリアはeoひかり、コミュファ光などがあり配慮されてauひかりは提供されていない。
・上記以外のエリアは、NTTが敷設し利用されていない光ファイバー(ダークファイバ―)を使った独自ネットワーク。
・IPv4、IPv6の違いはデュアルスタック(*6)という技術で対応している。
・ルーターレンタルは必須。
(*6)デュアルスタック;ネットワークに接続する端末1台につき、IPv4、IPv6両方のアドレスを割当て、どちらのアドレスでも利用できるようにした技術。
NURO光
これもNTTダークファイバ―を使った独自ネットワーク。
・NTT内に設備が必要になるため、サービス提供エリアは関東圏など限られ、住所で確認が必要。
・契約は、下り2Gbps、6Gbps、10Gbpsの回線速度がある。
・電柱から家外壁に「光キャビネット」設置までがNTT工事、「光キャビネット」から宅内「光コンセント」まで光回線敷設、ルータ接続設置までがNURO側の工事となり、回線開通まで1~2か月かかる。
・ルーター(ONU兼ルーター)レンタル無料、「下り2Gbps」契約は月額基本料は業界最低レベル。工事費4万円(月割1333円)だが実質ゼロとなるキャンペーン特典がある。
・伝送技術にはGPON(2G)、XGPON(6G、10G)という技術が使われている。
・無料レンタルされるルーターは、IEEE802.11n/acのいづれかで選べない。
が、11nを11acにしたいならサポートデスクに相談して欲しいという。
と、ここまで書いてきたところで、筆者の場合ルーター選びはどうやら「光回線」選びになってしまった感がある。
現在の「光コラボ」では、いくらルーターを11ac若しくは11axにしたところで、効果的な速度アップは期待できない可能性が大きいのではないか。もともとの回線速度に制約されてしまうのだ。
試しに、IPoE対応の安い11acのルーターを買い、5GHz帯で送受信し、ルータの「チャネルボンディング機能」を使って帯域をまとめてもどれだけの効果が期待できるのだろう、と思わざるを得ない。
試してみたいが、それほどの効果がでなければ買ったルーターが無駄になる。
それよりも、現在の月額料金より安いNURO光を使ってみたいとも思う。
会社でコンピュータ機器を購入するときは、必要な能力の3倍くらいの余力を持ったマシンを買っていたが、回線にも余裕が少しは欲しくなる。ことPCを選ぶときはそれほど性能には頓着しなかったのだが・・・。
さて、いったいどうしたものだろう。
次第に寒くなりつつある秋に、筆者の悩みも深くなりゆくのでありました。
結果はまた別の機会に。