遥かなる「知」平線

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ハイゼンベルクの不確定性原理

文科系だったので量子力学の基礎すら学んだわけではありません。
だから、こうした記事を書く資格もないと思うのですが、「隠れ」理科系としては、なんとも興味をそそる記事が先月出ていたので、1月22日の読売新聞からご紹介しましょう。

物理学には「原理」「法則」「定理」などの決まりごとがある。
「原理」は、物理学のもっとも基礎になるもので、本来は証明できない。証明できるなら、それよりも基礎的な出発点があるはずだから。「法則」は「原理」を数式で表したもの、「定理」は法則から導かれた公式を指すとされる。

この「原理」を表す「法則」を修正した「数式」が、実験によってその正しさが確認された。長年「正しい」と思われてきた「法則」も「より正しい」ものに書き換えられることもあるということだ。

2009年からウィーン工科大学の長谷川祐司准教授らが行ってきた、中性子という微小粒子を利用した検証実験で、ハイゼンベルク不確定性原理を示すとされてきた式は成り立たず、この式を修正した名古屋大学小澤正直教授が唱えた「小澤の不等式」は、常に成り立つことが確認されたのだ。

物理学にとって、モノを観測することは基本的なことだ。ボールを投げると、ボールの位置運動量が観測できればボールの状態がわかり、ボールの動きが予測できる。ところが、原子や電子の極微の世界では粒子の「位置」、「速さ」(正確には、粒子の質量を乗じた「運動量」)は一つの数値で示せず、数値幅を持った「ゆらぎ」が必ず伴う。物体の「位置」も「速さ」も正確にはわからない。

量子力学に関する不確定性には2種類あるとされる。

一つは、極微の粒子が本来もっている「位置」と「速さ」の不確定性。
粒子の「位置」や「速さ」には本来的な「ゆらぎ」がある。(量子力学の本来の性質)

「位置」と「運動量」は測定するしないにかかわらず、同時に正確に決めることはできない。
それを数式に表現したのがケナード(米国の物理学者)の不等式といわれるものだ。

σ(Q)σ(P)≧h/4π  【ケナードの不等式】
σ(Q);位置のゆらぎ
σ(P);運動量のゆらぎ
h;プランク定数 6.63×(10のマイナス34乗)ジュール・秒

二つ目は、ハイゼンベルクが1927年に提唱した「ハイゼンベルク不確定性原理」だ。これは、粒子の「位置」や「速さ」を測定する時の「誤差」についての話である。

粒子の「位置」を調べるには、そこに光をあてて見えるようにしなければならない。もし、光の波長が長ければ電子を正確にとらえられず、「位置」がはっきりしない。「位置」を正確に測定するためには波長の短い光を使えばいいが、それはエネルギーが高いので、電子を弾き飛ばしてしまい「速さ」を正確に測れない。

 

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このように、量子の世界では、量子の「位置」を正確に知ろうとすると「運動量」が分からなくなる。「運動量」を正確に知ろうとすると、「位置」が分からなくなる。
「位置」と「運動量」を同時に知ることはできないというのだ。

このハイゼンベルクの主張を表しているとされてきた式が下記である

ΔQΔP≧h/4π
ΔQ;「位置」の誤差 粒子が存在する可能性のある位置の範囲
ΔP;「運動量」の誤差 運動量の大きさの範囲
(ΔQ、ΔPをゼロにすることはできない。)

2003年に小澤教授が、このハイゼンベルクの原理を示す式の欠陥を指摘した。
小澤教授によると、測定の有無に関係なく成立するケナードの不等式を、測定に関するハイゼンベルク不確定性原理に誤用しているというのである。

小澤教授は、「測定」や「誤差」について数学的に定義し計算をし直した。
それまでハイゼンベルクの式とされてきたものに「位置の誤差と速さのゆらぎの積」「速さの誤差と位置のゆらぎの積」の二つの項を付け加えた。

ΔQΔP+σ(Q)ΔP+σ(P)ΔQ≧h/4π 【小澤の不等式】

従来の式との決定的な違いは、位置と速さの誤差をゼロにでき、これが正しければ、これまで物理学者が諦めてきた粒子の精密測定が可能になるはずだ、というのである。

例えば、宇宙で超新星の爆発が起こると「時空」のゆがみが波のように広がる。いわゆる「重力波」の到来で物の長さは、1メートル当たり6億分の1ミリほど変る。この微小な変化を「干渉計型」という観測装置でとらえるのにも、ハイゼルベルクの限界を超えた観測が可能な計算を1988年に小澤教授が発表して貢献したのである。

長年確立されていたと思われていた、この世界の成り立ちを説明する「原理」の「法則」も、修正されて「より正しく」なり、さらなる可能性を拓くことができる。

きちんと理解できているわけではないが、こうした話を聞くと、私たちの身の回りにも、そうした「常識(法則)」がたくさんあるような気がしてならない。

アインシュタイン相対性理論もそうだったが、科学は、私たちの世界観に修正を迫る。そして同時に、新しい観測や技術進展のきっかけとなるのである。

う~ん、面白そうだ。・・・やっぱ理科系に行けばよかった。(爆)