遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

フンボルトペンギン 337番

人生もそう、
自分達が歩むべき道を探して行かなければならない。
日常生活の中で、平坦な道のりはない。
上に上がっていくには何らかの危険を冒し、
何かを犠牲にしなければならない。
イビチャ・オシム 男子サッカー元日本代表監督)

 

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フンボルトペンギン(この写真のペンギンは337番ではありません)

 

3月4日に、オイラは4メートルの岩を乗り越えて葛西臨海水族園江戸川区)を逃げ出したんだ。
夜陰にまぎれて夜逃げときたもんだ。そして海へザブーン。

去年1月に水族園で生まれたから、外の世界を見たかったんだ。
135羽の仲間のうち、何羽かを誘ったんだけど、皆、「外は怖い生き物がたくさんいるから嫌だ。食べ物が獲れなかったらどうする」って、話に乗ってこなかったんだ。

食べ物と安全を保障された生活じゃ何が不満なんだって。
リスク管理の観点から、お前の考えは間違っているだと。
どうせあの岩は4メートルもあって逃げるのは無理だって。

でもさ、そとの世界がどうなっているか知りたいじゃないか。
どんな生き物がいて、どんなところがオイラの本当の世界かって。

ペンギンだって、進化しなくちゃならないんだ、やってみなくっちゃ成功するかどうか分からないじゃないか、と説得したけど相手にしてもらえなかったんだ。

いいもんね~、一人で行っちゃうもんね~。って、うまくいった、うまくいった。
ただし「脱走ペンギン」って呼ばれるのは可愛くないなあ。(注)
もっと可愛く呼んで欲しいな。

水族園の「フンボルトペンギン337番」っていうのも味気ないけどさ。

イヤ~、楽しかったよ。海には食べ物はたくさんあったし、特に危険なことはなかったし、時々は人のいない川岸に上がったり、そりゃもう自由で、海の中じゃ人間より早く泳げるしね。つかまる心配もなかったからね。

かえって、遠くから心配そうに見守ってくれてたし。
時には、「頑張れ、捕まるな」って、応援してくれる子供たちやおばさんもいたんだよ。

江戸川の行徳橋(千葉県市川市)付近で11時ごろ通報されたらしい、岸で休んでいたらオイラを捕まえにきて、一度は逃げたんだけどさ。

人間が体を伏せて、そっと近づいて来たのには油断してしまった。
陸では思うように動けないからね。鳥だけど飛べないし。
5時半頃、あろうことか人間に素手で捕まえられちまった。

捕まるまで82日間、自由で楽しい冒険をありがとう。
水族館のおじさんたちは、きっと対策を立てるんだろうね。
みんな真面目だから、オイラが逃げた「真因」とやらを追求し、「対策」を「いついつ迄に」やります、ってね。

でもさ、オイラだって誇り高きペンギンさ。
またきっと、いろいろ考えるから、みなさん、油断めされるな。

2012.8.15追記
(注)その後7月、この「脱走ペンギン」は、「さざなみ」と命名された。