遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

待ってくれ、オレの「身体」

この話は、仕事で長く付き合いのある知人から聞いた話である。
知人(仮名;ノリ)とその友人(仮名;ヨシ)が、高校時代に体験したという。

ノリとヨシの二人は高校一年で、中学からの友達だった。
ヨシは、高校に入ってすぐ、バイクの免許をとり、やっと念願のバイクを手に入れた。
ホンダの125cc。

風を切って走るバイクで遠乗りがしたくて、どうせ行くならと、怖い者知らずで、心霊スポットへ、それも午前1時の真夜中に、二人で家を抜け出して走り出した。
ノリは後ろに乗って、ヨシの身体に両腕を回してつかまっていた。

 

「オレは、人玉が見えるんだぜ」
ヨシはよく言っていたが、ノリも同じだった。
二人とも子供の頃から霊感が強かったのだ。

買ったばかりのバイクに乗って「幽霊」を見に行くと言ったら、「あそこ」しかない。
国道242号線、両国・釜石間にある「鳥の沢トンネル」。

国道45号線を宮古から釜石方面へ両国まで行き、そこから旧道の国道242号線に入る。
真夜中に走る地方の山あいの国道に、走る車はほとんどない。
外灯もまばらで、曲がりくねった狭い国道は、バイクのライトが、行く手を照らし出すだけだ。

走り始めてから一時間ほどたって、ようやく目指す「鳥の沢トンネル」に近づいてきた。
と、突然、道路の両脇にある反射鏡に、複数の火の玉が揺らぐのが見えたのだった。
ノリは、ヨシの身体にまわした腕に力を入れる。

そしてトンネルの入り口。

そこは、なんとピンクの明かりに縁取られた入り口。
もちろん、こんなさびれたトンネルにイリュミネ―ションなどはない。
ピンクの人玉が、トンネルの入り口にぐるりと取り付いて、二人を歓迎していたのだ。
「ようこそ、いらっしゃい」と。

その輪の中の「黒い穴」。
無限に続くかと思われる「闇のトンネル」が、ピンクの口を開けていたのだ。

「行け!」
二人を乗せたホンダは、その黒い穴へ飛び込んだ。

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【ノリの視点】
飛び込んだと同時に、ガクンと衝撃が走った。
「なに?」

・・・身体に重力を感じない。質量も感じない。
「えっ?」

二人乗りのバイクの姿が、眼下に走り去っていくのが見える。
バイクの後ろに乗っているのは、オレの「身体?」ではないか。

ノリは、バイクの後ろに乗った「身体」を離れて、「意識」がトンネルの天井近くに浮いていたのだ。しかし、浮いている「意識」の「姿」は見えない。

バイクに乗ったままの「姿」で、透明な「意識」となって浮かんでいたのである。

「待ってくれオレの身体、置いて行かないでくれ!」

どれほどの時間がたったのか、ピー、ピー、と音が耳元を遠ざかって行くと思ったら、再度、ガクンと衝撃が走り、「意識」は、斜め下を走り去るバイクに向かって行った。バイクに乗ったままの「姿」で、浮遊した「意識」が「身体」に、手足から順に吸い込まれ、入り込んで行ったのだ。

そして、入り切ったと思った時、「寒い」と感じたのである。

【ヨシの視点】

トンネルに入る前に、すでに、「それ」はいた。
奇妙な音も聞こえていた。

トンネルに突入した瞬間、突然、自分に捕まっていたノリの腕の力が抜けた。
ダラリとした死人の腕につかまれているようだった。

そして、背中にノリの上半身の重みが、意識を失って寄りかかってきた。
ノリが、トンネルの入り口にいた「それ」に取り憑かれた?

ヤバイ・・・、と、バイクのクラクションを鳴らし続け、アクセルを噴かした。
ノリの腕が、自分の身体を這い上り、首を絞めるのではないかと、何度もノリを振り落とそうかと思った。

その恐怖に耐えて、クラクションを鳴らしたまま、一気にトンネルを走り抜けた。
トンネルを抜けた時、やっとノリの腕に力が戻った。


そのまま走りながら、二人とも正気に戻ってわめいた。
「魂が身体から抜けた!止まるな、そのまま走れ!」
「ノリ、おかしかったぞ、大丈夫か!このまま行くぞ」
二人は、止まらずに、釜石まで突っ走った。

 

このことは誰にも言わないでおこうと話し、帰りは、国道45号線を宮古へ戻った。
ノリは家に入る前に、母親に見つかり、こっぴどく叱られた。
いつもの温和な母と違い、生前一度だけ見せた、鬼の形相であった。

「こんな夜中に、何時だと思っている!

バカなことばかりしていると・・・持って行かれるぞ」
「!?・・・」

ヨシとは、そのことがあって以来、何故か付き合いがなくなり、高校卒業後から現在に至るまで、消息はわからない。もちろん、この話は、二人以外誰も知らないままだ。

よくTVで、「心霊スポット」めぐりと称した番組があるが、そんな所にはいかない方がいい。
魂を、「持って行かれ」たくなければ。