遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

追悼 ニール・アームストロング

「あのマットレスの向こうを覗いて」と言った。
そこには巨大な虫が死んでいた。
「でも誰にも言わないでね」とエミリーはささやいた。

次に少女は彼を自分の寝室に連れて行った。
「これが私の時計、これが私のランプ、これが私の鏡、
これが私の本よ。これはくまのプーサンの本、

これが眠り姫、これがシンデレラ、
あっ、ニ-ル・アームストロングの本があったわ。
初めて月に立った人よ」

すると少女はしばらく口ごもり、家を訪れるようになった
祖父のようなやさしい老人を見つめて言った。
「あら!あなたの名前もニ-ル・アームストロングね?」
(J・R・ハンセン;『ファーストマン』はこの文章で終わっている)
(注)エミリー;アームストロングの友人の孫娘(4歳)。

 

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ニール・アームストロング 1930.8.5-2012.8.25

 

あのとき、私は栗駒山の山小屋にいた。煌々と夜空に輝く月を仰ぎ観ていた。
いまあそこに人間がいるんだと思いながら。

8月25日、人類で初めて月面に立った二ール・アームストロングが亡くなった。
82歳だった。

ジェイムス・R・ハンセン 『ファーストマン 上・下』 (ソフトバンク クリエイティブ)から月面に降り立ったイーグルの様子を少し紹介しましょう。

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降下3分後にマスケリンWと呼ばれるクレータの上空を予定より数秒早く通過した。
「三分の地点を早めに通過した。少しずれている」

経過時間04:06:38:22、黄色い警告ランプが灯り、LM内部に最初のアラームが鳴り響いた。二ールはヒューストンへ「プログラムアラーム」と伝え、三秒後に視線をディスプレイへ移して「1202」と付け加えた。

ミッションコントロールはわずか15秒で返事を返した。
「そのアラームは(降下)続行だ」

アラーム1202の原因は、着陸レーダからデータが届いたことで船内のコンピュータの負荷がオーバーしたことだった。コンピュータは着陸データを最優先処理をしないので、このオーバーフローで着陸が危険にさらされることはないとヒューストンのコントロールルームにいた26歳のスティーヴ・ベイルズが即座に判断した。

三度目のアラーム1202から七秒後。
オルドリン「プログラムアラーム1201」
この新しいアラームで状況は緊迫した。

降下は中断なのか?

LMは月面から2000フィートの高度にあって秒速50フィートで降下していた。
キャプコム「アラーム1201、続行。同じタイプだ。続行」

経験を積んだテストパイロットとして二ールは、「飛行マシンがほかにすべて順調ならこのようなアラームで(降下)を中断する必要はないと直感的にわかっていた」。

ルナオービターが撮影した何十枚という月面の写真を訓練で見ていたが、この地形は違っていた。しかし二ールは心配していなかった。
「降下エリアが危険でない限りどこへ着陸するかはあまり気にしなかった」

オルドリン「35度。750(フィート)。23(フィート毎秒)降下中」
二ール「OK」
オルドリン「700(フィート)。21(フィート毎秒)で降下。33度」
二ール「かなり岩が多い」

岩の間の着陸地点へどれだけうまく操縦していけるかわからなかった。しかし時間がなかったが、着陸したいような開けたエリアではなかった。

高度500フィートへ近づいたとき、二ールは手動操縦へ切り替え、クレータを飛び越えた。月面が反射する光があまりに強く、視力が大きく奪われて距離感がひどく損なわれた。

200から160フィートまで降下する間に二ールは、ウエスト・クレータの先の別の小さいクレータのすぐ向こう側になだらかな地点を見つけた。

オルドリン「200フィート、4.5で降下」
二ール「あのクレータのすぐ先にしよう」

二ール「良い場所を見つけた」
オルドリン「160フィート、6.5で降下。5.5で降下、9で前進」

降下するにつれて視界はどんどん落ちて行った。巻き上げられた塵のせいで・・・左右方向と前後方向の速度が判断しにくくなった・・・大きな岩がいくつか塵から突き出していたので、塵の層に霞んでいる動かない岩を見つけて、それをもとに水平速度を決めなければならなかった。

ヒューストンコントロールのコンソールが示す燃料の量が明らかに危機的だった。
オルドリン「燃料ランプ点灯」

100フィートを切ったとき、もともとあった燃料の5%しか残っていなかったのだ。
降下中断となる燃料にまで減る「ビンゴ」まで、あと94秒。
75フィートのとき、ボブ・カールトンはクランツに、ビンゴまで60秒しか残っていないと伝えた。

100フィート以下なら、一番安全なのは降下を続行することだった。燃料の状況は把握していたし、ビンゴの声も聞こえた。コックピットでは燃料ランプもついていたが、どちらも遅すぎた。

オルドリン「20フィート、0.5で降下」「接地ランプ点灯」
二ール「シャットダウン」
オルドリン「エンジン停止」

静かなタッチダウンだった。LMはまるでヘリコプターのように着陸したのだった。

キャプコム「着陸了解。イーグル」
二ール「ヒューストン、静かの基地へ到着した。鷲は舞い降りた」

1969年7月20日日曜日東部夏時間16時17分39秒。人類が初めて月に到着した瞬間だった。
「ここまでは順調だ」が二ールの感想だった。彼はバズに言った「OK、進めよう」

 

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人間の可能性を示してくれたこの一歩を、

私たちは歴史に留め、

新しい未来への勇気としよう。

 

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新世界を築かねばならないのは、

未来を求めて人類の領域を広げるためだ。

領域を広げなければ、人間は内へと向い、

自分にしか関心を持たなくなる。

領域が広がれば、今日より明日のことを考え、

自分より社会のことを考えるものだ。
(ニール・アームストロング


どんなトラブルにも「尋常ならざる冷静さ」をもって対処し、
「鉄の神経」を持つと言われたアームストロング。
魂は、再び月へ巡ったか。

合掌。