遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

はやぶさ 地球へ帰ってきたよ

去年6月13日、小惑星探査機ハヤブサが、7年ぶりに地球に帰ってきました。
大きく報じられていたので、知っている人も多いでしょう。
もうすぐ一年が経ちますが、この時のことを書いてみました。

 

ただいま、地球のみなさん。
7年間、60億キロの一人ぼっちの航海を終えて、やっと戻ってきたよ。

ミネルヴァ小惑星探査ロボット)の投下は失敗、
サプラ―ホーンからの弾丸発射もうまくいかなかったけど、
でも「イトカワ」のチリはカプセルに入っていると思うよ。

イトカワには、88万人の名前が刻まれた「ターゲットマーカ」(ハヤブサが降下する時の目印)も置いてこれたし、だから、イオンエンジンで航行してきて小惑星に着地し、サンプルを持って帰った人類史上初めての快挙は達成できたよね。

途中、12基の化学エンジンが全て使えなくなってしまったんだ。
3つのリアクションホイール(姿勢制御装置)のうち、2つが壊れ、そして4基のイオンエンジンも全てダメになり、かろうじて2つのエンジンの正常な機器をつないで一つのエンジンにしてもらってやっと、地球に、辿りついたんだ。

帰路、45日間行方不明になったときも、地球の皆さんは、ぼくをずっと探し続けていてくれたね。
本当にありがとう。

最初の計画では、カプセルを地球に射出したら、化学エンジンを使って、地球を離れ、また宇宙の旅に出るはずだったんだ。
そうすれば、ぼくは永久に、宇宙をどこまでも旅することができるって。
でももう、化学エンジンは使えないから、地球から離脱できないし、それに宇宙線の影響で、コンピュータのビット化けが起きてるし、もうダメみたい。

さっき、カプセルを放出したから、ぼくの役目はすべて終わったよ。
だから、ぼくが最後に見た地球の写真を送るね。
川口おじさんたちが、地球の写真を送れって、いうからさ。

みんなとこんなチャレンジができて、とても楽しかったし、
また地球の姿を最後に見れて、とても嬉しかった。


それじゃ、みなさん さようなら、
そして、ありがとう・・・・・

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2010年6月13日22:02 「はやぶさ」撮影
地球へのダウンロード中に通信途絶。
画像下部の灰色の領域はダウンロードできなかった部分。
白いすじは、地球が明るすぎるため。

 

トラブルは後を絶たなかった。
リチウム電池がほとんどなくなり、ほんの僅かな太陽光圧で航行したり、化学エンジンの燃料が漏れその力で本体が回転して制御を失い、行方不明になったり、
それでも、地球からの定期的な「応答せよ」コマンドに、かすかに応えてくれた。

4機のイオンエンジンが全て停止した時も、非常用回路で2機の正常な部分をつないで復活してくれたり、「もうダメ」という瀬戸際を何度もくぐり抜けて、ミッションを達成し、地球大気圏にカプセルを放出して、満身創痍のハヤブサは燃え尽きたのだった。

 

傷だらけで、ぼろぼろになったハヤブサ帰還を前にして、
カプセルを回収することは、ハヤブサ本体を失うことだ」と、
プロジェクト責任者の川口淳一郎さんは、次のように綴っている。

どうして君はこれほどまでに指令に応えてくれるのか?そんなにまでして・・。
イオンエンジンの運転が再開した時、そんな気持ちをもってしまった。
我々が方策を考えあぐねていたならば、それは君を救う道だったかも知れない。

使命を全うするのか?それとも、いやいやをしたいのではないか。

・・頑張って欲しいと思う反面、その先に待つ運命は避けられない・・・空力的に大気でジャンプする案など・・度重ねた検討によっても、熱の壁が先に来てしまい、救えないことはわかっている。
・・・一度きりのチャンスしかない。万全の備えが必要だ。しかし、この万全さは、逆に、「ハヤブサ」自身の最後を確実にしてしまう。・・・

思えば、この運命は、化学エンジンが使えなくなった2006年の時点でわかっていたことなのだ。帰ってくるなというわけにはいかない。・・・

ハヤブサ」が切り離すカプセルは、「ハヤブサ」自身の思いを載せて、次の後継機への「たまご」になると考えるべきなのだろう。

ハヤブサ」自身もそれを望んでいるのだ。・・・

イオンエンジンの長期の軌道制御が終了した3月末、君はどうしてそんなにまで、と再び思った。けれど、その時、「ハヤブサ」の覚悟が何であり、何を望んでいるのかがわかった気がした。

たまごを受け取って孵してあげること。それをしなくてはならない。

この6月、「ハヤブサ」自身が託したいことをやり遂げられるよう運用すること、彼が託すことをかなえてやることが、彼自身にとって最良の道なのだと、ようやく悟れたと思う。

2010.4.15 「ハヤブサ」プロジェクトマネージャ  川口淳一郎
JAXA宇宙科学研究所教授)


ハヤブサがわが身と引き換えに放出したカプセルは、ウ―メラ砂漠の予想楕円地域のど真ん中に着陸した。
そして、その後、カプセルには、イトカワ由来の粒子が格納されていることが判明し、今後の研究が大いに進展することが期待されている。

モンモのマンションのリビングには、美女たちの名画とともに、小惑星イトカワの写真をバックにした、ソーラパネルを広げたハヤブサの大きなポスターが貼ってある。

 

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ハヤブサの主な軌跡】
2003.5.9 ハヤブサ打ち上げ
2005.7 リアクションホイール(姿勢制御装置)1基故障①
2005.10 リアクションホイール1基故障(残り1基)②
2005.11.4 イトカワへのリハーサル降下、異常検知中止③
2005.11.9 降下試験2回、ターゲットマーカ投下されず④
2005.11.12 ミネルバ(マイクロ地上自動探査機)投下失敗⑤
2005.11.20 ターゲットマーカ投下成功(160カ国88万人の名前)
       イトカワ、ミューゼスの海へ着地・離陸
2005.11.26 イトカワへ2度目の着地、試料採取(?銃弾不発⑥)離陸
2005.11.27 化学エンジン推力低下(化学燃料漏れエンジン停止)⑦
2005.11.28 通信途絶⑧
2005.11.29 通信復活
2005.12.8 姿勢不安定⑨
2005.12.9 通信途絶⑩
2006.1.23 通信復活~2.6 新姿勢制御プログラムを送り込む
2006.3.6 正確な位置・速度を地球で把握
2009.11.4 イオンエンジン全機停止⑪
2009.11.19 イオンエンジン帰還運用再開
2010.6.13 ハヤブサのカプセル着陸

 

【参考文献】
山根一眞 『はやぶさの大冒険』 マガジンハウス 2010年7月
的川泰宣 『「はやぶさ」の奇跡』 PHP研究所 2010年10月
川口淳一郎 『はやぶさ、そうまでして君は』 宝島社 2010年12月
Newton別冊 『探査機はやぶさ7年の全軌跡』 2010年8月