遥かなる「知」平線

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夢や憧れではなく

僕は、勝負をしたい。
ダルビッシュ有 2012年1月24日札幌ドーム球場

 

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ダルビッシュ有 2012年1月24日札幌ドーム球場

 

野茂以来、多くの日本の野球選手が米メジャーリーグへ行った。
彼ら多くの選手が、「子供の頃からの夢を叶えるために」と言い残して海を渡って行ったのだ。

ダルビッシュ有投手(25)が、日本ハムから米大リーグ・レンジャーズへ移籍する。
かつて、「メジャーに行きたくはない。行くくらいなら野球をやめる」とまで言い、その気持ちは今も変らないという。

ではなぜ、メジャーへ行くのか。

24日札幌ドーム球場で、彼はその胸の内を一万人を超えるファンの前で語った。

試合の前から、相手選手から「投げないで」「無理だよ、打てないよ」と冗談にせよ聞いていると、フェアな対戦をしていないのではと引っかかっていたという。

相手のバッターを倒したいと強い気持ちで向かっていくのが仕事なのに、バッターは応えてくれない。
全身全霊でバッターと真剣勝負がしたいのに、それがかなわない。

だから、戦う「場所を変えないといけないのかな」、「行かなきゃいけないのかな」と、そう思うようになったというのだ。

プロデビュー以来、7年通算で93勝38敗。この間、防御率1.99を誇り、5年連続1点代の数字を残した。直球も、多彩な変化球もどれも一級品。

日本のエースは、バッターとの真剣勝負に「飢え」ていたのである。
メジャーに行かなければ、この「飢え」を満たすことはできないのか、と。

一流のアスリートは、どこか孤高だ。
イチローも松井も、自らの力量が、どんな高みに至るかを知りたいのだ。

ならばダルビッシュよ、己が力量を存分に試してみるがよい。

空調の整ったドーム球場ではない。
夏なら40℃を超え、試合数も断然多い過酷な闘いの場で、全力で挑む君の姿を、私たちも見たいのだ。

一人の25歳の若者が、自らの「飢え」を満たすために海を渡る。
金のためではない。

その姿は、なぜか私たちに問いかける。

私たちは、飢えていないのか、自らの可能性を求めることに、
全身全霊をかけた勝負に、飢えていないのか、と。

一人の「サムライ」の姿に、私たちは日本の未来を見たいのだ。

 

【出典】読売新聞朝刊 2012年1月25日