遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

イチロー プロフェッショナルの条件

小さなことの積重ねが、とんでもないことに至る唯一の道だ。(2004年)
確かな一歩の積み重ねでしか遠くへ行けない。(2009年)
イチロー
2004年;MBLシーズン最多安打歴代1位を記録
2010年;10年連続200本を記録

 

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昔から、一流のアスリートの本を、時折り読んでいる。

宇津木妙子ドゥンガ高橋尚子イチローらの本である。アスリートに限らず、苦難を乗り越えて栄光を、というお定まりのパターンなのだが、そんな人たちの物語が、結構好きなのだ。それは、自己を鍛練する苦行僧に似て、その先に何者かになって行く姿が、結構感動もんであるからなのかも知れない。

これは、そんな人たちについての、2009年9月に書いたコラムです。
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【9年連続200本安打】

イチローが、2009年9月14日の試合で、9年連続200本安打を達成した。メジャーリーグでは、108年ぶりの記録達成だという。

(それまでの記録は、ウィリー・キーラーの8年連続)
2004年の264本のシーズン最多安打記録達成の時にも、話題になったが、イチローが記録を塗り替える度に、メジャーリーグの古い記録が掘り返される。

それだけ、前人未踏の領域へ達したということなのだろう。野球の本場での記録なだけに、その価値の偉大さがわかろうというものだ。まだ現役、しかもメジャー在籍9年にもかかわらず、米野球殿堂入りが取り沙汰されているらしい。通常は、10年在籍しないと対象にはならないらしいのだが、偉大な記録達成は、特別扱いにもなるのだろう。

試合後のインタヴューでも淡々としている。

200本目が注目されるが、199本までのプロセスが大事
「やった」と思ったことはこれまでにない。「よかった」というのがこれまでの思い、これからも、「よかった」とおもうことが、僕にとっての達成感なのだと思う
これまでは人との競争だった。これからは、やっと自分との競争になる

オリンピック、世界大会など様々な記録が出るたびに、その時の実況やニュースに見入るが、一般人にとっては、アスリートの日常については何も知らない。優勝や記録達成の陰に、彼らの血のにじむような鍛錬の日々があったことを、関係者以外ほとんど知らない。
ケガがあったり、挫折があったり、そうした苦難を乗り越えて、優勝や記録が達成出来たと、その時のニュースや特番で放送されて初めて、一般に知らされる。

【高校クイズ日本一】

先日、TVで「高校対抗、クイズ日本一」を争う番組をやっていた。全国から進学校を中心に常連高が、3人一組で競うのだが、昔のクイズ番組と違って、かなりマニアックなものもあり、「そんなことまで」と思わず、彼らの知識欲の凄まじさに圧倒される。
年間、300冊の本を読むという女子高生もいた。ゲストで出演していた茂木健一郎が、「本を読んだ分、それだけ、地平線を見る目線の高さが高くなる」と言っていた。

彼らは、スポーツ大会で記録を出すわけでもなく、こうしたTVに出なければその存在を知られることなく大学へ行き、社会へ出て行く。時折、数学・物理・化学・生物オリンピックでメダルをとればマスコミにも取り上げられるが、そうやって取り上げられても彼らの日々の日常は、知られることはない。
多分、本を読んだり、問題を解いたりする日常を放送しても、視聴率を稼ぐような「絵」にはならないのだ。

【10000時間の法則】

分子生物学者の福岡伸一氏(ベストセラー『生物と無生物のあいだ』の著者)によれば、スポーツでも将棋・囲碁や「知の領域」他のどんな分野でも、その道の一流になる人には、ある共通した時間があると言う。
それは、幼少時を起点にして、例外なくそれに集中し、専心するたゆまぬ努力の時間を共有しているというのだ。

その時間が10000時間。1日3時間、1年1000時間、それを10年間続ける。それが10000時間になる。毎日休まず、継続する厳しい鍛錬のうえに、初めてプロフェッショナルが成立すると言う。

【脳との関係】

将棋の羽生名人の脳を調べると、詰め将棋の様々な局面を次から次と示した時の脳は、脳の奥深く、脳幹下部の大脳基底核尾状核というところが活発に働いている。

ここは、努力や行動の習慣化、思考の習慣化に関係する部位で、ここが発達しているというのは、小さい頃からの鍛錬の結果という。しかも、他のプロ棋士にも見られない特徴らしい。
恐らく、年少時からの長い厳しい鍛錬の結果、それが習慣化し、こうした脳の働きになっているのだろうと言う。

イチローの場合も、子供のころからバテッティングセンターに通う毎日だったし、現在でも、試合2時間前に球場に入り、決ったメニューで柔軟体操をしたりと、同じパターンの行動をし続けて試合に臨んでいる。決りきったこと、同じ行動パターンを脳にさせることで、脳は一定の出力を行う。

年少の頃からの集中したたゆまぬ鍛錬、同じパターンの行動の毎日。こうした鍛練を、10000時間(1日3時間、1年1000時間を10年)続ければ、プロフェッショナルが成立するような脳が形成されるらしい。

【凡人と環境】

昼休み、会社の同僚二人と食事をしている時、イチローについて話していた。一人が、
「今から、10年続けても、60になってしまう(笑)、できないなあ」といい、
私が、「でもやってみれば、「何者」かになるかもしれないよ」と、本心から言ってはみた。

続けて二人は、「なんだか、俺たち、最近頭使ってないよなぁ。だんだんバカになってるんじゃないかと思う」と、しみじみ言っていた。考えないで、作業的なことが多いと。「頭使うことしたい」結構そんなことを言う人が多い。

脳という最高の資源を無駄使いしないよう、自ら頭を使う鍛錬ができないものか。
人間の脳細胞は1000億個、上司+部下5人のチームなら、合計6000億個の脳細胞がある。部下に作業しかさせていないとしたなら、上司の1000億個しか脳細胞を使っていないことになる。部下の5000億個の脳細胞を無駄にしている。

イチローたち天才が、小さい頃からの鍛錬で作られたとすれば、凡人たる私たちは、鍛錬と言えるどんなことをして来たのだろうかと思ってしまう。それでも、人によってそうした日々を送ってきた者はいると思う。そのために今がある人もいるだろう。

ともあれ、天才たちは生まれながらにしてそうであった訳ではない。長い鍛錬の時を経て天才となったのである。ならば、凡人たる私たちも、今からでも少しは見習うことがありそうだ。

10年後の自分を期待して、少しづつ毎日努力できる何かを見つけてはどうだろう。忙しい時間のなかに、なんとか時間を見つけ出して。それは、結局、毎日の作業に流されずに、覚悟と執念をもって自分の毎日の人生をコントロールすることが必要だ。

そうした日常の向こうに、見えてくる何かがあるのかも知れない。まずは、決意と行動、そして執念。それなら、凡人にも少しはできるかも知れない。