浅田真央の集大成
どんなに辛くても、試合はやってくる。
自分が浅田真央であることからは逃れられない。
(浅田真央)
私にとって今夜の主役は浅田真央だ。
(94年リレハンメル、98年長野両大会銀メダル;エルビス・ストイコ)
これほど素晴らしい演技はなかった。
彼女は自分に打ち勝った。
(浅田選手の元コーチ;タチアナ・タラソワ)
ソチ五輪フィギュアスケート女子SPで浅田真央選手は、最初のトリプルアクセルに失敗し、その影響から16位となり、メダルはほぼ絶望的となった。「なぜ失敗したのかわからない。最初から身体が動かなかった」とショックを隠せなかった。
「なんで真央だけ、こんな試練を受けなければならないの」
(浅田選手の振付担当;ローリー・二コル)
応援していた多くの人たちも、彼女の心中を思ったのではなかったか。
見ているのが辛くなるほどに。
だから、この4年間の努力を知る多くの人々が応援の声を送った。声援は日本人ばかりではなかった。
「真央は偉大なチャンピョン、前よりも強くなるだろう」
(ジェレミー・アボット)
メダルが絶望的になった状況で、フリーの演技まで、どれだけ立て直せるのだろう。
見ているほうも胸が絞めつけられた。
翌日朝になっても、前日の失敗を引きずっていた。
恐怖から逃げ出したかった。
「やるべきことを全てやってきたから、出来ないはずはない」そう佐藤信夫コーチに言われた。
自分を信じてフリーの演技に入った。
バンクーバでの2つのミスを取り戻すために。
荘厳なラフマニノフのピアノ協奏曲にのって、最初のトリプルアクセルが見事に決まった。それが、感動的な演技の始まりだった。
6種類の3回転ジャンプを8回、エイトトリプルといわれる誰よりも難易度の高いプログラムに挑み、ステップシーケンスを可憐に舞った。
圧巻の演技終了後、浅田選手の目に涙が溢れた。
自らに課したリベンジを見事に果たした瞬間だった。
感動は世界に届き、多くの賛辞が寄せられた。
「真央は素晴らしかった。トリプルアクセルは特に良かった。
君は真のファイターだ」
(02年ソルトレークシティ銀メダル、06年トリノ金メダル、10年バンクーバ銀メダル;エフゲニ―・プルシェンコ)
「真央!なんてスケート!なんてファイターなの!」
(10年バンクーバ銅メダル;ジョアニー・ロシェット)
「素晴らしいカムバックだ!!信じられない演技」
(14年ソチ銅メダル;デニス・テン)
「真央の姿に涙した。一生忘れない演技だった」
(98年長野銀メダル;ミシェル・クワン)
「涙がこぼれた。ありがとう真央。華麗だった」
(06年トリノ銅メダル、羽生選手の振付担当;ジェフリー・バトル)
「泣きたくなるほどすばらしい」
(02年ソルトレークシティ金メダル;アレクセイ・ヤグディン)
「(後から映像で見て)鳥肌がたって泣きそうになった」
(鈴木明子)
演技終了後の佐藤信夫コーチの表情は、「そうだ、これが浅田真央だ」と言っているように見えた。
五輪には、メダル以上のものがあることを改めて教えてくれた。
アスリートとして最も難易度の高いプログラムに挑戦し、フィギュアスケート界をリードしてきた選手こそチャンピョンにふさわしい。
メダルには届かなかったが、この日の主役が誰だったか、世界の人々、多くの歴代名スケータたちは知ったのではなかったか。
浅田真央の演技は、確かに世界に届き、アスリートの魂を多くの後進に示した。
かくあれ、と。
浅田選手、素晴らしい演技をありがとう。