羽生結弦の金メダル
大切なのは、あなたが信じ、伝え続けること。
思いを定め、努力を重ねれば何かをつかめるのだと。・・・
皆に届けと命を削って舞った、その姿以上に、
強烈なメッセージはないのだから。
(結城和香子 「読売新聞」2014.2.17)
ユズルは、フィギュアスケートの未来だ。
(ロシア代表 プルシェンコ)
ソチの冬季オリンピックで、19歳の羽生結弦がフィギュアスケート男子で優勝、カナダのチャンに競り勝って金メダルを獲得した。
2014.2.16 読売新聞
冒頭の4回転を失敗してからの立て直しがうまくいったようだが、本人にとっては会心の演技ではなかったのだろう、正直金メダルは逃したと思ったそうだ。
3.11を被災者として過ごし、スケートをやっていていいんだろうかと思うこともあった。
「震災後スケートができなくて、本当にやめようと思った。生活することすらも精いっぱいのぎりぎりの状態。たくさんの方々に支えられて、こうやって今この場所にいる。だから感謝の気持ちを持っていたい」
「(金メダルを取ってもあまり笑顔がないのは)自分に、何かできたんだろうかと考えていたから。僕一人ががんばっても、復興の直接の手助けにはならない。無力感さえ感じる」
内外の記者が詰めかけた会見場は、彼が語る話の重さに静まりかえったという。
「涙が出そうになった。どこの19歳が、あんな深いことを言えるだろう」
ある辛口の米国の記者は、そう語った。
TVなどで、ミーハーなインタヴューに答えて、選手が「人々に感動を与えられるような選手になりたい」と言うのを聞くことがあるが、そうした言葉とは無縁な会見だった。
「震災」を心に抱え、厳しい練習に耐えた。
命を削り、死力を尽くして、一人氷上に戦った者だけが言えるのだろう。
多くの被災者の思いを背負い、
自分のジャンプが、彼らに届けとばかりに氷上を舞ったのだ。
目標を定め、一人自分と闘い、技の限界に挑戦し、
持てる才能を一心不乱に発揮する。
そのことだけで、私たちの胸に彼の「魂」が伝わる。
それがスポーツの持つ力なのだから。
彼が躍動し、勝ち得たメダルを目にし、
また新たな力を得て明日を生きる人たちがいる。
だから私たちは、君が懸命に戦い得た金メダルを誇らしくおもう。
たとえ関係者が、「勝者なき勝利」と言おうと。
羽生結弦19歳、金メダルおめでとう。
人生という戦いはまだ長く続くが、今はしばしの勝利に酔いしれていい。