ジョエル・ディケール著 ハリー・クパート事件
人生は長い転落のようなものだ。
だからいちばん大事なのは、負けることを恐れないことだ。
いいかマーカス、自由とは、そして自由への渇望とは、
自分との闘いだ。・・・
自由とは一瞬一瞬の勝負のことだが、それをわかっている人は少ない。
難しい選択を迫られたらこの格言を思い出せ。
<あえて挑む者が勝つ>
(ジョエル・ディケール『ハリー・クバート事件』)
秋の風を感じると、なぜかミステリーが読みたくなる。
モンモの読書遍歴は、中学の頃に読んだコナン・ドイルに始まる。
以来、分野を問わず、あらゆる種類の本を読むようになるのだが、ミステリーに限っていえば、エラリー・クイン、アガサ・クリスティ、ディクスン・カーと続き、そしてもはやミステリーとは言えないロバート・ラドラム、トム・クランシーへと大きく逸脱していくようになる。もちろん、枝葉は分岐し日本の作家もそれに加わっていく。
外国の「推理小説」の舞台といえばどうしてもイギリスを思い浮かべるのは、読書の出発点がそうだったからなのだろう。
しかし、ジョエル・ディケール著『ハリー・クバート事件上・下』(東京創元社、2014年7月)の舞台はアメリカ、ニューイングランド地方だ。もちろんミステリーの舞台は、どこであってもいいはずなのだが、どうもアメリカはピンとこない。
しかし、著者の力量なのだろうあっという間に読んでしまった。
33年の時を経て見つかった少女の遺体。
主人公(マーカス・ゴールドマン)の恩師ハリー・クバートが逮捕された。
作家へと導いてくれた師の無実を信じるマーカスは調査を開始する。スピード感豊かなどんでん返しの連続は、アメリカのドラマ『24』を彷彿とさせる。
新たな謎は次なる謎を生み、殺害された15歳の少女(ノラ)の人物像の変転につぐ変転に、思わず読者は先を急ぐだろう。
いったい、ノラは何者なのか。
そして、事件が解決しても、師ハリー・クバートの真実が最後に残される。
彼の人生はいったい何だったのか。
著者のジョエル・ディケールはジュネーブ生まれの29歳。
秋も深まってきた日の一冊に、TVを消して読書の楽しさを存分に味わってみてはいかがだろう。