遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

「20・30」は実現可能か

思慮が足らず、底が浅く、将来の展望などなにも考えないままに、
いつもその場しのぎで現在の問題を糊塗しようとする。
これは倒産の危機に瀕した企業の典型的な思考パターンなのかもしれない。
だが、・・・そんな考えかたはとんでもない災厄に通じる。
マイクル・クライトン『プレイ』早川書房

世のなかのあほうどもは、
何か決定すれば事態がひとりでに
動きだすとおもっているのとちがうか
田中芳樹銀河英雄伝説徳間書店

いまに新しい時代がやってくる。
現在の秩序が崩れて、
きっと今とはちがう社会が出現するだろう
ハプスブルク フランツ・ヨーゼフ皇帝の長男ルドルフ)


20・30』というフレーズを聞いたことがあるだろうか。
2020年までに企業や官庁の役職者に占める女性の割合を欧米並みに30%にしようという政府の方針だ。
生産人口が激減していく中で、労働力不足を補おうと、「女性が輝く社会」をキャッチフレーズに職場の意識改革を行おうというものだ。
この話を聞いて、ふとある企業の女性課長(その後昇進していたらごめんなさい)のことを思い出した。

 

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ルノワール 『海辺に座る女』1892年 メトロポリタン美術館

 

2年以上前の話になるが、朝9時からの会議のために、8:30前には都内のあるビルの会議室に入った。その朝は風雨が強くて、電車に遅れがでていた。
まあでも、主催者側はなんとかそろって、ある企画設計を委託するために、複数のパートナー会社に説明する資料の確認をしていた。
モンモの会社と、別の会社の共同プロジェクトで主催していて、
モンモの部下のタカと、その会社の女性課長Aさんが話していた。

タカ 「すみません、朝早くメールしまして、間に合いましたか」
Aさん 「ハイ大丈夫です、どうせいつも早いですから」
モンモ 「えっ、この資料朝作ったの?」
Aさん 「ハイ」

どうやら、その日配る資料の修正版を朝、タカは自宅からAさん宛てにメールし、それをもとにAさんは、資料を修正して、コピーしこのビルに運んできたという。
Aさんの職場のビルは、ここから30~40分くらいかかるので、作業とコピーと移動時間で、少なくとも2時間はゆうにかかる。
今が、8時30分だから、作業開始は6時すぎじゃないと間に合わない。

モンモ 「いつも何時に出社するの?」
Aさん 「今のビルは、6時にならないと入館できないんです」
モンモ 「えっ、じゃあ引越し前のビルのときには、6時前に出社?」
Aさん 「5時台に」
モンモ 「えっ、じゃあいつも朝は、4時頃に起きているの?」
Aさん 「はい」
モンモ 「で、朝早いからってアメリカみたいに早く退社するわけでもないんでしょ う?退社は20時とか21時くらいとか?」
Aさん 「ええ、まあ、そのくらいに」

モンモは、思わず大声で叫んでしまった。
もっと人間らしい生活しなさい!!
…ハハと笑いながら、Aさんは、
「ええ、そうなんですよね、私もこれではいけないと思ってはいるんですが…」
と、言ったのではありました。

 

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ルノワール『アンリオ夫人』1876年ワシントン・ナショナル・ギャラリー)

大手食品メーカーに勤務する知人は、家族がまだ寝ている早朝に出勤し、夜は深夜に帰宅する毎日を送っている。休みの土日はどちらか1日は出社し、休みの日は家族サービスどころかグッタリーネ。奥さんとも、なかなか話をする時間も取れない。
それだけ「24時間、戦えますか」が根付いている社会のこうした「貧しさ」を変えずに、多くの働く女性を「男社会」が都合良く取り込むだけなら、問題は何も変わらない。

先進国にも関わらず、「労働基準法を守っていたら会社潰れるよ」という女性社長もいる日本。こうした女性の経営者はごく一部だろうが、「男女平等」だから「母性保護」などどうでもいいと内心では思っているのかも知れない。

保育士の待遇改善もされず数も不足しているのに、いくら保育所を増設したところで、長年「男社会」が培ってきたこうした社会風土が改善されない限り、環境を整えるだけでは不十分だろう。

子供社会の「いじめ」が、大人社会の反映であるように、働く女性のありようや困難さは、「男社会」の価値観の反映でしかないのだろう。
もし、本当に「女性が輝く社会」を望むなら、「男社会」の価値観や働き方こそ変えなければ、持続可能な政策にはならない。

生産人口が減少していく社会が自明なら、様々な働き方の選択肢と能力の質に対する評価を見直す必要があるのは当然だが、一番厄介なのは、男たち(≒企業経営者)の意識改革である。

安倍さんだって、いつまでも総理をやっているわけではない。
「20・30」が「打ち上げ花火」にならないことを願おう。