遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

コミコミさんの生態

もう引退した元上司の、コミコミさんという人の話です。

会社のコンピューターシステムにトラブルが発生すると、その修復のために作業が深夜に及ぶことがあります。
システム部門のデータセンターは、交通の便の悪い、周りには宿泊施設もなく、住宅街にありましたから、22時を過ぎるとバスはなくなり、最寄りの駅までタクシーに乗るしかありません。

そんなトラブルのあった深夜、そろそろ終電もなくなります。
しかしギリギリ帰れないわけでもないので、センターに宿泊するまでもありません。
それでも、自宅が遠いパートナー会社のヤマノリが帰る電車はありません。

二人を、モンモのマンションに泊めることにしました。

 

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と、上司のコミコミが、自分も泊まりに行くといいます。
コミコミは帰れるでしょう?という周囲の声にはおかまいなく、泊まる、泊まる。
好奇心旺盛な彼は、部下が住まう家がどんなところか、知りたくて知りたくて仕方ないのです。

仕方ないなあ、終電も微妙だし、追い返すのもなんだし、連れて行くことにしました。
途中、お茶やら、ちょっとしたおつまみなどを仕入れて、マンションに向かいます。
コミコミは、幼稚園児がお泊り保育に行くように、スキップせんばかりに嬉しそうについてきます。
どんなおうちかな、ルン♪と、まるで子供です。

これは説教の一つも言わずばなるまい。

ねえ、コミコミ、言っておきますけど、
あまり、部下の家に押しかけたりはしないものですよ
部下だって、普通は上司のことは鬱陶しくて迷惑なんですからね。

イヤイヤ、ハイハイ、と馬耳東風、ニコニコしています。

ひょっとしてこの人は、モンモを部下だと思ってないのかも知れません。
ヤマとノリは、そうですよね、まったくコミコミさんは、仕方ないなァ…と苦笑い。

家について、しばらくお茶なぞを飲みながら、よもやま話しをしていますと、コミコミの携帯が鳴りました。
この時間、会社からではありません、どうやら奥様のようです。テーブルから立って、「ハイハイ」とかしこまって返事をしつつ、洗面所の方へ歩いて行きます。

何気なく、モンモの視界に入ってくる姿、耳に入ってくる声があります。

「ハイ、どうもすみません」
と、携帯を耳にあてたまま、ペコリと90°にお辞儀をしているではありませんか。
奥さんと思しき、電話の相手にしきりに謝っているようなのです。

「ほんとうに、ごめんなさいです、ハイ」と、また90°にペコリ。
「ハイ、分かりました。おっしゃる通りに」と、90°ペコリ。

あ~ら、コミコミは、奥さんには頭が上がらないのね、と三人で微笑ましいねと、話していました。なんか説教されてるみたいだね、と。

電話が終ってテーブルに戻ると、
「今から、家に帰る」と言います、

えっ、もう12時とっくに過ぎてるよ、泊まるんじゃなかったの?
「いや、タクシーで帰る」と毅然として言うのです。

奥さんになにか言われたのでしょうか、緊急事態が起きたのでしょうか。

顔から笑顔が消え、真剣な顔になっています。
ルン♪、じゃなかったの?、ルン♪じゃ。

決意が固そうなので、
「そうですか、それじゃ気をつけて、奥様に宜しく」

コミコミは、そうして帰っていきました。

なんだか、帰るコミコミの後姿が、子供が遠足へ行けなくなってしょんぼりしているようにも見えました。どんな話しだったかわからないけど、相当なこと言われたんだね、きっと、とワイワイと残った三人で話していました。

 

数日後、コミコミが会社の洗面所で、眠気を覚ますためか、顔を洗っていました。
両手に水道の水をすくって、最初は両手を顔にあてて顔だけを洗っているのですが、顔と頭の区別がつかないというのか、さえぎるものがないというのかだんだんと両手の上下の幅が大きくなり、ついには大胆にも、顔も頭も一緒にツルッと洗っているのです。

なんと効率的かつ合理的な美しい動作でしょう。モンモは感動のあまり、目をマンマルにして、思わず「オー」と声を出してしまいました。

そう言えば、その当時コミコミは家を新築したと言っていました。
この3月の震災後、TVで言っていましたが、最近もっとも危ない三つの活断層の一つに、××活断層があるといいます。
その真上に、コミコミの家が立っているのです。

大丈夫でしょうかコミコミ、奥様と活断層には、気をつけて下さいませ。