遥かなる「知」平線

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2008年 4つのノーベル賞

10年先のことを知りたいなら、南部の意見を聞け。
但し、それを理解するのには10年の月日がかかる。
(米国のある物理学者)

自由以外に、思考の目的はない。人間が思考によって獲得
する価値のあるものは、それ以外にない。
森博嗣 『笑わない数学者』 講談社文庫)

「民主主義は、自由な論議を保障するためにある」
「学問は自由を獲得するために行うものだ」
益川敏英


【2008年ノーベル物理学賞

2008年、日本では一度に4人の科学者が、ノーベル賞を受賞したと大騒ぎになった。とりわけ、日本在住の小林、益川氏の2人に注目が集まっていた。
益川氏の英語嫌いだとか、インタビューで「ちっとも嬉しくない」と言って、話題になったので、記憶している人も多いだろう。

 

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小林誠氏(左)と益川敏英氏(右)

 

小林、益川氏二人の論文は、全部で6ページほどの論文で、現在でも引用される素粒子物理学の論文のベスト3に入るものらしい。
モンモが小学生の頃に抱いた疑問の一つ、「物質をどこまでも小さくして行くと、どうなるか」の世界の話しである。

原子核を構成する陽子、中間子。それを構成する素粒子が、当時3種類しかない
とされたのに対し、2人は6種類あることを予言し、以後40年にも渡る日米のしのぎを削る「証明競争」を経て、それが証明され、受賞となったものであった。

二人とも名大の出身で、「何やら秘密があるのでは?」と話題にもなった。
湯川博士の弟子の坂田博士という人が、二人の恩師で、彼の研究室の「主義」が「民主主義」にあったことが、大きい影響を与えたとされている。

「先生」とは呼ばせない、研究者としては先生も先輩・後輩もない。研究室の運営
は、全て民主主義で決めるらしく、夏休みをいつからにするかもを決めることまで、皆で決めるほどだったらしい。

今はそうでもなくなったが、モンモの職場でも、「肩書きでは呼ぶな。老いも若きも論議するには肩書きは無用。一番いいアイディアを出した者が、一番偉い」という教えがあったが、それと同じだと思いました。

良い組織と、良い哲学があれば、良い仕事ができる」(坂田博士)

 

【「知の巨人」南部陽一郎

二人に較べ、他の二人は米国在住でもあるせいか、あまり日本のマスコミには登場しなかったように思うが、素粒子物理学の世界では、南部氏は「知の巨人」と言われるくらい、二人以上の存在であるようだ。

 

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シカゴ大学ノーベル賞を受ける南部陽一郎氏)

 

ビックバン直後は、質量を持たない素粒子で宇宙は満ちていたのに、どうして物質は質量を持つようになったのかを「自発的対称性の破れ」で説明した。

宇宙が冷えてくるに従い、真空の性質が変わり、物質が質量を持つようになった、ということらしい。

自然界には、強い力、弱い力、電磁気力、重力という4つの力があり、現在では
以下のような理論体系がが考えられている。

①「自発的対称性の破れ(1959年)を基礎に「弱い力」と「電磁気力」を統一的に説明する「ワインバーグ・サラム理論

・「ゲージ理論」を基礎に「強い力」を説明する②「量子色力学
ここまでを標準理論と呼び、ほぼ確立されていると言われる。

以下は、まだ未完で、物理学者の大テーマとなっている。

・上記2つを統一して説明する「大統一理論
・「大統一理論」と「重力」を扱う「一般相対性理論」(アインシュタインが独力で完成)を統一して説明する「超ひも理論
・「超ひも理論」の土台となる「超対称性理論」と③「ひも理論」

上記①~③の重要な素粒子物理学の基本となる構成理論に南部氏が関っており、
いつ、ノーベル賞をとってもおかしくないと言われていた。(今回は①で受賞)

10年先のことを知りたいなら、南部の意見を聞け。
但し、それを理解するのには10年の月日がかかる
(米国のある物理学者)

1973年にクォーク同士の間に働く「強い力」の相互作用について3人がノーベル賞
を受賞した際に、その基になる「量子色力学」に関った南部氏に言及し、
「南部の理論は正しかったが、その登場が早すぎた」(ノーベル財団
と解説書に補足があったという。

私の仕事はあらゆる問題について考え、理解に努め、解決していくことです。
私は死ぬ日までそれに取り組み続けたい」(南部陽一郎

本人は、とても謙虚な人で、自分の業績を基礎に、若い研究者が次々と
ノーベル賞をとって行くのをみても、何も言わなかったといいます。

 

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ノーベル化学賞を受賞する下村脩氏)

 

化学賞の下村さんを含め、戦後の必ずしも裕福ではなかった環境で、探求すること
への情熱だけが彼らを支え、そして、40年以上も経って受賞したことに、人間が
成し得ることの年月と、それに一命を捧げることの尊さを感じずにはいられない。

高校時代、物理学の世界がどんなことになっているか教えてくれていたら、と、
今さら思っても遅いのだがそう思ってしまう。当時は、アインシュタインで物理は終り、そう思っていたので、高校教師の責任は重いものがあります。

物理の先生は、モンモのことを「モンモンモン」と呼んで、ずっとそう思っていたみたい。モンモも「モンモンモン」になりきって、指されれば素直に「ハイ」と言って、答えていましたから。

ノーベル賞もあって、理科系を目指す学生も増えたとか。
高校生諸君、是非この世界に挑戦してみて欲しい。
万物の成り立ちの秘密を、君たちが手にする日が来るかも知れない。

【出典】NHK取材班=著 『4つのノーベル賞』 NHK出版 2009年