「ABC予想」の証明
人生におけるもっとも幸福なことの一つは、
極め得るものを極め、
極め得ないものを静かに尊敬するにある。
(ゲーテ)
(注)しかし、ゲーテ自身は、83歳の生涯で2週間しか幸福な時はなかったと言う。
一か月ほど前の新聞に、京大の望月教授が「ABC予想」を証明した、という記事を見て、モンモの血が騒いだ。
数学の難問と言えば、2000年5月、パリで開催されたクレイ数学研究所の集会で、「ミレニアム賞」問題として、7つの数学の問題が発表された。1問につき100万ドルの賞金が懸けられたので、数学ファンならずともご存じの方も多いだろう。
そして、その中の1つ「ポアンカレ予想」が2002年~2003年にかけて、ロシアの数学者グリゴリ・ペレリマンによって100年ぶりに証明され2006年に証明が正しいと確認された。
同年数学界のノーベル賞とされるフィールズ賞を受賞。また2010年3月ミレニアム賞を受賞したが、両賞とも受賞を辞退したことでも知られる。
或いは、フェルマーの最終定理が360年後の1994年10月、アメリカの数学者アンドリュー・ワイルズによって証明されたことを記憶している方も多いでしょう。
モンモの数学のバックボーンは、文系の大学初等数学(微分方程式、差分方程式、偏微分、全微分)までなので、上記数学の証明を読むことすらできないのだが、「知りたい」というほとんど無意味な欲求だけで、何年ぶりに証明されたなどという記事が出ると、つい血が騒いで、こうした話のまわりをいまだウロついている。
「ABC予想」は、「ミレニアム賞」問題にはなかったが、1985年に提唱されて以来、30年近く解かれていなかったというのだ。
整数A、Bとそれらを足し合わせた整数Cとの間の、素因数の関係についての予想だ。(下図参照)
なんでも望月さんは、500ページにも渡る論文で、整数に関する理論と幾何学を組み合わせた「宇宙際タイヒミュラー理論」とかいう独自の理論を発展させて証明に用いたという。
完全に理解できる数学者は、現時点ではほとんどいないというから、その証明が確認されるにはしばらく時間がかかるようだ。
もし、この証明が正しければ、多くの整数論の問題に解決の突破口が開かれるという。望月さんは、論文のなかで、宇宙際タイヒミュラー理論によって「ボイタ予想」と「スピロ予想」の証明も得られると述べている。
イギリス科学誌ネイチャーの電子ニュースは、望月さんの証明手法について「ABC予想の証明にとどまらず、数学上の強力な道具になるだろう」とする米国数学者の声を紹介している。
望月さんは取材の問い合わせに、「数学の専門的な話であり、数学界の中で、一部の専門家の間で処理されるべきものであると考えております」とつれないが、こうしたニュースに血が騒ぎ、うろついているモンモのような人種の喉の渇きに、せめて水の一滴でも恵んではくれまいかと思うのだが、それもかなわぬようだ。
【参考】
参考までに「数学21世紀の7大難問」を下記にあげておきます(タイトルのみ)。
リーマン予想(『難問中の難問 「リーマン予想」に挑む天才たち』参照)
バーチ、スウィンナートン=ダイアー予想
P対NP問題
ポアンカレ予想⇒解決
ホッジ予想
ヤンーミルズ(理論)の存在と質量ギャップ
ナヴィエ-ストークス(方程式の解)の存在と滑らかさ
【資料】
2012.9.23 読売新聞