遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

P・ルメートル その女アレックス 死のドレスを花婿に

人は自分の人生から逃れることができない。
逃げようとしても、それは必ず追いかけてくる。

「あなたらしい」・・・
「考えたことを口にする勇気がない。口にしたことの意味を考える誠実さもない」
(ピエール・ルメートル 『その女アレックス』より)


まだ読んだことのない作家の本を購入する時は、少し不安です。読んで面白くなかったら・・、とつい思ってしまうからです。それでも冒険は必要です。新しい作家を開拓しなければ、自分の世界が固定化され小さくなってしまうのではないかと思ってしまうからです。

ならば図書館で借りて読んでから、どうしても欲しかったら買えばいいものをと思うのですが、順番が来るまでに時間がかかってしまうものもありますし、あるいは文庫本になるのを待つというのもなかなか辛抱のいることです。「早く読みたい」という欲求につい負けてしまいます。

なので、書評を読んだり、なんとか賞とかを参考にすることが多いのですが、新刊本は高いし、「広告ほどではないでしょう」と思うものも結構ありますから、どうしても期待外れの本を買ってしまうのは仕方がないのでしょう。斎藤孝先生は、年収の2割を本に使いなさい、と言っていますが、そんなに余裕はありません。

だから、新刊はすぐ絶版になるので、自分の「感」を信じて、これはと思ったものだけを買い、あとは極力、古本で買うことにしています。そしてつまらなければ古本に売ってしまうのです。
そんなこんなで最近買った本の中から、海外ミステリーで面白かった本をご紹介しましょう。

ピエール・ルメートル著『その女アレックス』(文春文庫)2014年9月

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2014年9月発売以降、「週刊文春ミステリー・ベスト10」など4つの年間ランキングで1位になったというだけあって、思わず「参った」。

被害者は、加害者なのか?。男であれ女であれ、逆境を戦う人間の姿にはいつも心打たれるものがあります。事件を追う刑事も魅力的です。
アレックスが仕掛けた罠には思わず涙する人もいることでしょう。

 

そして同じ著者のもう一冊。
ピエール・ルメートル著『死のドレスを花婿に』(文春文庫)2015年4月

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『その女アレックス』よりも前に書かれたミステリーです。
人生には幸運も不運もありますが、その不運は本当に「不運」なのか?人生のその転落は、本当に自ら招いたことなのか?
「策士、策に溺れる」最後は読者も許してくれるでしょう。

アレックスもそう、ソフィーも、なぜ闘う女性はかくも美しいのでしょう。
これ以上の内容は読んでのお楽しみということで書きません。

この社会には、実に多くの理不尽に泣く人々がいます。事故や事件で犠牲になる人が毎日ニュースで報道されるたびに、胸を痛める人も多いことでしょう。自由を奪われ、仕事を奪われ、そして誰にも気づかれず、声も上げられないとしたら・・・。

「こいつは許せないだろう」と怒りをたぎらせつつ、「なんとかならんのか」とやきもきする。ここに読書の醍醐味があると同時に、読み終わった後にはなぜか、結構リアルな「正義」とやらを身に纏うことができてしまう。

そして、心奧に芽生えるその「正義」とやらは、実に汎用的なものだと気づくでしょう。人間にとって最も大切な「心の原理」ともいうべきものは、学校の道徳教育なんかよりも、意外にもこうした読書によって形成されるものかも知れません。

わいせつ行為で捕まる公務員、宴会のコンパニオン代を公費で支払う議員、政務活動費で私腹を肥やす政治家、贈収賄で逮捕される有名大学の准教授、証拠隠滅のためにPCのディスクに穴を開けることは知っている国会議員などなど、不正の輩は数えればきりがありません。

みんなちゃんと生きようよ」と思わずTVに向かってつぶやいてしまう、そんなささやかな「正義」ぐらいではあっても、それがなくては人々を守るはずの法律も空文化してしまうでしょう。

偉い先生方もエリートも、難しい専門書を読む一方で、ミステリーの一冊や二冊読んでみてはいかがでしょう。そうすれば、この社会ももう少しましになるように思うのですが、いかがなものでしょうね。