遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

ハリルJAPANと民族

サッカーは、人間はどんな属性、民族でも一緒になって行動できるということの一番いい証拠だ。だから、サッカーは多くのナショナリストにとって都合が悪いのだ。

メッセージはまさにこれだ。一緒に生きられるということ。一緒に遊び、プレーすること。それで戦争を忘れられる。またここの民族は一緒にやれる。何かが成し遂げられないと人々からは認められない。
だが、あいつらにはできる力がある
(サッカーの可能性とは?と問われて)
(注)ボスニア・ヘルツェゴビナのサッカー代表チームはセルビア人、クロアチア人、ムスリム人などの多数の民族からなる。

ロマに偏見など持つわけがない。彼らの住居は自分の家の前、母はいつもジミーにケーキをふるまっていた。「お前にあげるなら、ロマの子にも出さないといけない」といつも言われていた。
(注)ロマ;迫害や偏見を受けてきた少数民族
出典;木村元彦オシム 終わりなき闘い』(NHK出版)からオシムの言葉を引用


サッカー日本代表監督がアギーレからハリルホジッチ監督に代って、チュニジア戦、ウズベキスタン戦の2試合を戦った。2試合とも快勝したので、監督交代の影響を心配した人もホットしたのではないだろうか。

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ハリルホジッチ監督

 

モンモもそうなのだが、ハリルホジッチの名前を聞いて、誰?っと思った人が多かったかも知れない。ボスニア・ヘルツェゴビナ(旧ユーゴスラビア)出身(国籍はフランス)と聞いてすぐ、前の代表監督だったイビチャ・オシムとの関係を思った人もいただろう。事実「オシムの推薦」と報道したメディアもあったが、実際そのようなことはなかったようだ。

コートジボワールの代表監督の後、W杯ブラジル大会ではアルジェリアを率い、決勝トーナメントで敗れはしたものの、優勝したドイツを延長戦まで苦しめた試合は、この大会でのベストマッチとも言われた。

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ウズベキスタン戦 (岡崎が柴崎のボールをゴールまで守った)

 

ボスニアと言えば、オシム同様この人もまた内戦で多くを失った一人だ。
ボスニア・ヘルツェゴビナは、セルビアクロアチア、そしてムスリムボシュニャク人)の主な3つの民族からなる国家だ。1992年から1995年まで、民族同士の凄惨な戦争が記憶に新しい。
サラエボセルビア兵に包囲され、日々の糧を求めて道を歩く一般市民が狙撃の標的となった。

オシムがユーロ92大会を前にユーゴ代表監督を辞任した時、多数のセルビア人記者を前にした会見で、彼はこう言ったのだ。
辞任とは私がとり得る最終手段だ。私はユーロに行くことはない。それが私がサラエボに対してできる唯一のことだ。あなた方は受け取りたいように受け取ればいい。私は説明はしない。思い出してほしい。私はサラエボの人間だ。サラエボで今、何が起こっているか、皆さんご存知だろう

そして第二次大戦以降ヨーロッパで最大の大量虐殺となったスレブレニツァの虐殺があった。ラトコ・ムラディッチが率いたスルプスカ共和国軍(セルビア人)によって8000人以上のムスリム人が殺害された。2004年ハーグの旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷ICTY)が、ジェノサイドと認定した「スレブレニツァ・ジェノサイド」(1995年7月)だ。

1995年10月のデイトン和平合意で、ムスリム系及びクロアチア系住民が主体の「ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦」とセルビア系住民が主体の「スルプスカ共和国」という2つの主体からなる国家とされたが、過激な民族主義が根強く残り、政治的には不安定なままだ。

オシムボスニアのイメージをこう表現する。
「我々の問題は、国のブランドが(サッカー)代表チームとスブレニッツアだけということだ。そう、後者は世界が知っているボスニアの悲しみのブランドだ・・・
スレブレニツァは重要な歴史であり、犠牲者の証として決して忘れることはできないが、この先に進むために、通常の生活やサッカーをするために解決していかなければならない。スレブレニツァは悲劇だが、復讐を胸にしてそれを自分が生きる原動力としてはならない


サッカーによって民族対立が無くなるわけでもないが、サッカーの中に民族対立を持ち込んではならない。そこに参加する選手が対立の原因をつくったわけでもない。
オシムがいうように、「一緒に生きられるということ」、「この民族は一緒にやれる」ということをサッカーは体現している。それを推し進めなくてはならないと思う。レッズサポータが掲げた「JAPANESE ONLY」などという排外主義はサッカーの対極にあると言っていい。

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ウズベキスタン

 

ハリル・ジャパンのサッカーやいかに、と2試合を見れば、大いに期待が持てそうだ。
これまでの戦い方とは随分違って見える。あれほどボールポゼッションにこだわってバックパス、横パスを頻繁にしていたのに、まるでメキシコのサッカーのように連携したアグレッシブなプレスで体を相手に寄せつつ2~3人でボールを奪い、相手チームの守備が整う前に前線へ速いパスを供給する。


かと思いきや、ウズベキスタン戦では後半、自陣でゾーンディフェンス。あれっ、守備が変わったかなと思えば、それは罠で、相手が出てきたところをボールを奪いカウンター。なかなか柔軟な戦術に、モンモも思わず引き込まれてしまった。
多様な戦術とそれをすぐ体現できる選手の技術の高さ、まだ2戦だけでなんともいえないが、大いに可能性を感じさせる2試合と思えた。ハリルの手腕に期待しよう。