遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

2012年マウリッツハイス美術館展(2)レンブラント

最も才気ある者は、最もみじめな思いをせねばならぬ。
最も過酷な使命を負わねばならぬ。それは天の摂理…。
世人の決して理解できぬ労苦をなめねばならぬ。

人間はできないと思ったら、まっすぐ歩くことだってできやしねえんだ。
町に出て、ぐうたら生きているやつの格好を見てみろ。
どいつもこいつも、野良犬みてえによろよろと歩いていやがる。
胸を張って、しっかり前を見ながら歩くことが、一番むずかしいんだ。
浅田次郎蒼穹の昴」)

 

これまでの3回の記事でマウリッツハイス美術館展の絵画を紹介してきましたが、最後にレンブラントの絵をご紹介しましょう。レンブラントといえば一般的に知られているのは『夜警』ですが、宗教・歴史画や自画像を含む肖像画も多く、オールマイティな17世紀を代表する画家です。

マウリッツハイス美術館レンブラントの目玉は大作『ニコラース・テュルブ博士の解剖学講義』とされていますが、今回は来日していません。
今回日本へは6点(+レンブラント工房作1点)が来ています。

 

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『スザンナ』1636年

聖書の中に出てくるスザンナは、バビロンの富豪の妻でその美貌と貞節さで際立っていた。物語によれば、背後の闇に隠れた二人の人物(ちょっと見えにくいです)が、彼女を手に入れようと策略し、「言うことを聞かなければ名誉を傷つける」と脅迫する。

これに屈しなかったスザンナは彼らに姦淫の罪で告発され、死刑の判決が下されるが、裁判に居合わせたダニエルの「聖なる霊」を神が呼び起こし、スザンナの潔白が明らかにされる。策略をめぐらせた二人の男は処刑される。

西欧の絵画は、宗教(聖書)やギリシャ神話に関するものが多いので、日本人にはただ絵を見ただけでは、何を描いているのか分からないものが多くあります。

 

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『シメオンの賛歌』1631年

救世主を見ずに死を迎えることはないと知らされたシメオンが、幼子のキリストこそ待ち焦がれた救世主であると悟り、声を張りあげて賛歌を歌う場面。

初めて授かった子供を神にみせ、2羽のハトを生贄に捧げようと聖堂にやってきたヨセフとマリアは驚いて地面にひざまづいている。背を向けた預言者アンナが祝福を与えている。

 

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『笑う男』1629-30年頃

この絵は、実際のモデルがいない「トロ-二-」である。この絵の素地は、銅板に金の層を重ねたもので出来ている。粗いダイナミックな筆致が効果的に生きるのではないかと考えたらしい。ところどころ金の下地を露呈させて、あえて目に触れるようにしている。銅板や金が絵の色合いに及ぼす影響を考えてのことだというが、他に2点にこれと同じ素地を使ったが、以後は使用しなくなった。

 

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『自画像』1669年

亡くなった年に描かれた最後の自画像とされてきた絵である。(後にロンドン・ナショナル・ギャラリーのレンブラント自画像からも1669年という表記が発見)
さてこの表情には、人生最後のどんな想いが込められているのだろう。

 

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『老人の肖像』1667年

この肖像画は、ヴァン・ダイクの優雅な肖像画が一世を風靡する時期に描かれた。まるで時代に抗するように、あまりにもくつろいだ肖像画である。
巨匠の実験的な描きかたは、最晩年の画家の衰えを知らない意欲を感じる。

 

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『羽飾りのある帽子をかぶる男のトローニー』1635-40年頃

これもよく見る絵だ。
レンブラントの自画像とされることもあったが、トローニーである。

 

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レンブラントの工房による模写 『首あてをつけたレンブラントの自画像』1629年頃

長らくレンブラント自身が描いた自画像とみなされてきた。1998年赤外線リフレクトグラフィによる調査で下絵が発見され、レンブラントは下絵を描かなかったので、これが模写とわかった。
レンブラント原作の自画像はニュルンべルグの国立ゲルマン民族博物館に収蔵されている。

【参考】

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『ニコラース・テュルブ博士の解剖学講義』1632年

今回は来日していないが、マウリッツハイス美術館の目玉となる絵画の一つ。

前回の記事でご紹介したアントーン・フランソワ・ヘイリヘルスの『マウリッツハイスの「レンブラントの間」』(1884年)の絵の中の「絵」として描かれているのを見ると、この絵の堂々とした感じが伝わるかと思います。


マウリッツハイス美術館
【神戸展】
2012年9月29日-2013年1月6日
神戸市立博物館