遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

リリちゃんの叫び

自分よ自分よ、なにゆえ不毛に御活躍?
森見登美彦 『夜は短し歩けよ乙女』角川文庫)

人生で有意義なことの大半は、無駄に見える。
伊坂幸太郎 『オー!ファーザー』 新潮社)

 

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A Girl with a Watering Can(1876)
Auguste Renoir(1841-1919)
National Gallery of Art,Washington

 

【登場人物】
リリちゃん;4歳くらいの女の子
ミーちゃん;リリちゃんの祖母と思われる50代の女性

 

先日、とあるデパートのエスカレータの近くでこんな光景を目にした。
リリちゃんのママが御用をしている間、お婆ちゃん(ミーちゃん)に娘を預けていたようなのだが、ミーちゃんがリリちゃんに少々てこずっている様子。

リリちゃんは、エネルギーがはちきれんばかりで、捕まえていないとどこにいくかわからないくらい。

リリちゃんは、ミーちゃんを自分のお婆ちゃんだとは今一認識していない様子で、自分の執事か、お友だちと思っているようなのだ。

 

リリちゃんのママが、自分の母親を「ミーちゃん」と呼んでいるようなので、リリちゃんにとっても、「おばあちゃん」ではなく、「ミーちゃん」なのだろう。

ミーちゃんの携帯電話をめぐる争いがはじまった。
ミーちゃんが誰かと電話したあと、その様子をじっと観察していたリリちゃんが、
携帯を「貸して」とせがんだのだ。

「でも、これは大事だからダメ」と言い聞かせるミーちゃん。
「貸して、貸して、貸して」と手をのばして取ろうと背伸びをするリリちゃん。

ミーちゃんは取られまいと、携帯をもった手を伸ばしてリリちゃんの攻撃をかわしている。

しかし根負けしたのか、「じゃあ、ちょっとだけね、ちゃんと返してね」「うん」と、ミーちゃんの携帯を満面の笑みで掴み取った。

小さい子は、大人のしていることをまねしたがる。おもちゃの電話じゃダメなのだ。
嬉しそうに、携帯を開いて誰かと電話で話すマネをしている。


「もしもし、ママ?今ね、ミーちゃんとお買い物してるの・・・」とかなんとか。
しばらくして、ミーちゃんが、「リリちゃん、そろそろ携帯返してちょうだい」と手をのばす。

「やだ、これリリちゃんの」
「それは、ミーちゃんの大事、大事。さっき返すってリリちゃん言ったね?」
ミーちゃんは、しゃがんで懸命に説得している。

「やだ、これリリちゃんの」と携帯を持った手を背中に隠して返さない。
困ったミーちゃんも、携帯を壊されたり、リリちゃんのママからの電話に出られないと困るので「返してちょうだい」とお願いする。

「やだモン」
「それはミーちゃんの」
「リリちゃんの」
・・・
そんな押し問答の末、ようやく携帯がミーちゃんの手にわたった。
ミーちゃんはホットし、リリちゃんは、「この、この、この・・」と怒り顔。

「そろそろいきましょう」
ミーちゃんはふくれっ面のリリちゃんを連れて、下りのエスカレータに乗った。

リリちゃんは、小さな身体いっぱいに怒りをふくらませて、頭を左肩から右肩へ振り上げ、階下へとつながる広い空間へ向けて、こう叫び上げたのだ。

フン!

もう二度と絶対、遊んであげないからね!

リリちゃんの甲高い大声は、エスカレータから見下ろす空間いっぱいに響き渡った。
周囲の客の笑い声に、ミーちゃんが恥ずかしそうに身体を小さくしている。

そう、人生はたいてい、思うようには行かないものだ。
リリちゃん、負けずに大きくなれよ。