遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

ヴェロッキオの弟子

レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯 (3)

 

この上なく偉大なる才能が、多くの場合、自然に、
ときに超自然的に、天の采配によって人々の上にもたらされる・・・
優美さと麗質、そして能力とが、
ある方法であふれるばかりに一人の人物にあつまる。
ジョルジュ・ヴァザ―リ 『芸術家列伝白水社 (レオナルド・ダ・ヴィンチの章の冒頭の記述)

 

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ロレンツォ・ディ・クレディ作の肖像画ウフィツィ美術館
モデルはアンドレア・デル・ヴェロッキオかピエトロ・ペルジーノで意見が分かれる作品

 

ヴァザーリは『芸術家列伝』にレオナルドのヴェロッキオへの弟子入りについて、次のような内容を書いている。

ある日父セル・ピエロは、レオナルドの素描を持って、友人であったアンドレア・デル・ヴェロッキオを訪れ、見込みがあるか聞いた。ヴェロッキオは、レオナルドの才能の片鱗をみて驚き、すぐ自分の工房で美術の勉強をするようにと強く勧めた。それを聞いたレオナルドもすすんでヴェロッキオ工房に入ることになった。

こうして1466年、レオナルド(14歳)は、フィレンツェで最も有名な工房に徒弟として入門したのだった。

ヴェロッキオは当代随一の画家・彫刻家・金細工師であり、優秀な弟子を多数抱える親方であった。ヴェロッキオのもとには、ボッテチェルリペルジー(1445頃ー1523年)、ロレンツォ・ディ・クレディ(1459頃-1537年)、ドメニコ・ギルランダイオらがいた。このギルランダイオは、のちにミケランジェロを育てる。

この工房で、レオナルドは、絵具の調合、青銅の型どり、絵筆の運び、彫刻の仕方などの基本技術、そして遠近法キアロスク―ロ(陰影による輪郭強調)、スフマート(ぼかした境界線による遠近表現)など、最新の絵画技法を学び、さらに磨きをかけて行く。

そしてヴェロッキオ工房の後援者はメディチ家だった。
当時の工房は、絵画・彫刻、建築・兵器製造・金属細工・室内装飾・服の仕立て・楽器制作・イベント準備や宴会の演出まで行っていた。

1471年、ロレンツォ・メディチ家督継承の祝にミラノ公スフォルツァ一行がフィレンツェを訪れた時、その歓迎の宴を演出したのがヴェロッキオ工房だった。このときの大音楽会でリラ(竪琴)を演奏したのが三人のリラの名手、ミリオロッティとヴェロッキオ、そしてレオナルドであった。

ヴェロッキオは弟子たちに、手に表現を込めることを教え、また「衣服の下にある骨と筋肉の知識を深めなさい」といい、身体は内側から構築するものだと考えていた。こうした教えは、後にレオナルドが死体の解剖まで行って人体の構造を細かに観察し、スケッチしたことにつながって行くので、大きな影響をレオナルドに与えたと考えられる。

 

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ヴェロッキオ「花束を持つ夫人」1475-80年(国立バルジェッロ美術館)

レオナルドが制作に関わった作品をあげておきましょう。

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①1471年(19歳);サンタ・マリア・デル・フィオ―レ大聖堂。
ヴェロッキオ工房は、クーポラの天頂に青銅の玉(重さ2t)と十字架(左写真)を取り付けた。
銅球を持ちあげるクレーン(回転式起重機)のスケッチ(『アトランティコ手稿』)(右)

 

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②1472年(20歳);ピエロ・デ・メディチの廟墓(サン・ロレンッォ教会)の製作に参加

 

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③1473年(21歳);ヴェロッキオ「トビアスと大天使」(ロンドン ナショナルギャラリー)制作に参加
左下の天使の足元に描かれている子犬をレオナルドが描いたことが確実とされる。
また、トビアスが手にさげた魚、彼の耳にかかる巻き毛もレオナルドが描いたと考えられている。

 

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④1474年(22歳);ヴェロッキオ 「ダヴィデ像」(バルジェッロ国立博物館
ダヴィデのモデルをレオナルドが務めたと言われる。

 

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⑤1475年(23歳);ヴェロッキオ 「キリストの洗礼」(ウフィツィ美術館)制作に参加
左下の右を向いている天使は、レオナルド作。
これを見たヴェロッキオは絵筆を置いて、二度と絵は描かないと誓った。(ヴァザーリ

 

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⑥1478-82年(26~30歳);「受胎告知」(パリ ルーブル美術館

ロレンッォ・クレディと共作という説もあるが、大方はクレディの作とされているようだ。

 

⑦1483年(31歳);ヴェロッキオ「聖トマスの不信」(オルサンミケ―レ教会)聖トマスの衣部分を制作
⑧1488年(36歳);ヴェロッキオ「コッレオーニ騎馬像」
ヴェネツィア サン・ジョヴァンニ・エ・パオロ広場)のデッサンと粘土の原型制作

(注)⑦、⑧については次回写真を載せます。

(続)