遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

イプシロンの0.07秒

(追記)2013.09.16
2013年9月14日、14時、イプシロン打ち上げが成功し、約1時間後、惑星観測衛星の切り離しに成功した。

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戦乱がいつ起こるか分からないのを、
みんなで必死に抑えてる。
その、頑張りが勝利している状態を、平和と呼ぶ・・・

平和ぼけ、とは言うけれど、それを保っているのは多くの
人間が頑張っているからだ。・・・
決して、ぼけていては平和は守れない
伊坂幸太郎 『死神の浮力』)

 

8月27日、7年ぶりに打ち上げられる国産の新型固体燃料ロケット・イプシロンの打ち上げが中止された。打ち上げ19秒前の中止だった。

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打ち上げ70秒前から自動カウントダウンシーケンスが開始されたが、19秒前にロケットの姿勢角(3つの姿勢角のうちロケットの進行方向の軸(ロール軸)まわりの角度)の異常を検知したためだという。

地上の発射管制センター(LCS)からロケット搭載計算機(OBC)を起動する信号を送り、OBCは姿勢の計算を開始した。
しかし、OBCはLCSより0.07秒遅れて動作し、これを想定していなかったLCSはOBCからの計算結果(姿勢角)を得る前に、ロール角の初期値「0」を使って閾値「±1」の「-1~+1」がロール角の正常値の範囲「+1~+3」に合致しないとして異常値判定をしたものらしい。

リハーサルでは、打ち上げ18秒までのリハーサルを8月20日に行ったが、その時はロール角の閾値に誤りがあり、「+1~+3」が「-1~+1」に誤って設定されていたため、その修正が間に合わずLCSの監視項目から外れていたという。8月21日の2回目のリハーサルでも悪天候のためロケットを外に出さず、同様の措置がとられた。

以前はロケット発射場の地下に管制センターがあったが、イプシロンの目玉である「モバイル管制」(少人数による遠隔操作)により、発射場から約2キロメートル離れた管制センター(LCS)と、ロケット搭載の「自律点検」を行う人工知能ROSE(即応運用支援装置)を経由してOBCで計算させるようになっている。

2キロの伝送路は処理遅延とはならないが、ROSEとOBCの二つの処理装置で合計0.07秒の遅延が発生するという。
但し、この0.07秒の処理時間の遅延は認識されていたようなのだが、LCS側のソフトの処理はそれを想定した作りにはなっていなかった。

JAXAは、「監視のタイミングを遅らせるなど、ソフトの改修」をするというが、他に同様の問題がないか検証する10数人の検証チームを立ち上げた。

LCSとROSE間の「送受信」は、なにも1~2箇所に留まらないと想像すれば、多数の「送受信」をすべて検証する必要がある。その負荷は決して小さなものではないと思う。だからこその10数人規模の検証チームなのではないか。

そう考えるのも、分散処理における最も基本的な処理方式の考え方に問題がある疑いがあるからだ。なぜなら、0.07秒の遅延が0.06秒以下になっても、その処理方式で大丈夫なのかという疑問がでてくる。

遅延時間が問題なのではなく、LCSが、ROSEからの受信をどのように待ち合わせているかの問題なのではないか。
他の処理装置に処理を依頼し、どうしてその結果を確認しないで次の処理にいくようなプログラム仕様にしたのか、恐らく問題の核心はそこにあるように思う。「監視のタイミングを遅らせる」のではなく「OBCからの処理結果を確実に受信してLCSの次の処理を行う」ということだと思う。

今回の件は、日本の宇宙ビジネスと将来の安全保障にも影響を与える最も基本的なシステム上の不具合と思える。もう一度ソフトの仕様を徹底的に検証して再度の打ち上げに臨んで欲しい。
無事、「夢」を打ち上げて欲しいのだ。

 

(注)もちろん得られる情報から上記記事を書いたので、処理方式についての詳しいところは分かりません。誤っている可能性も大きいかも知れないことをご了解ください。