遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

ボイジャーの遥かなる旅

おまえはだれか。
おまえは、どこから来たのか。
おまえのようなものを、これまで見たことがない。
創造主ラベンは人間を見てそう言った。
そして、この見なれない新しい生物が、
自分自身にあまりによく似ているのでびっくりした
エスキモーの創造神話


先日、36年前に地球を旅立ったNASAの探査機ボイジャー1号が昨年8月、史上初めて太陽の影響下にある「太陽圏」を飛び出し「星間空間」に入ったと発表があった。
ボイジャーは、1977年8月にボイジャー2号が、同年9月に1号が打ち上げられ、1979年に両ボイジャー木星に接近し、リング、衛星イオの活火山、新たな12個の衛星を発見した。

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ボイジャー1号

ボイジャー1号は、1980年土星に接近し太陽系(注1)外へ、ボイジャー2号は、土星に新たなリング4個、新たな衛星7個以上を発見し、1986年には天王星のリングを発見した。1989年8月に海王星に最接近し、リング、衛星を発見後、衛星トリトンの写真を最後に太陽系外へと1号の後を追った。
(注1)太陽系;いわゆる「古典的」な太陽系で太陽の引力が影響する範囲。半径が太陽から海王星までの距離45億キロメートルの範囲。

ボイジャーが送ってきてくれた写真がどこかにあったはずと、32年前の資料を書庫の中からごそごそと探し出したので、懐かしい画像をいくつか載せておきましょう。

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木星と衛星イオ(左)、カリスト(右)

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木星の衛星イオのロキ・パテラ火山の噴火

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木星の衛星ガニメデ

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木星の衛星カリスト(左)とアマルテア(右)

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土星と衛星ディオ-ネの影

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土星と衛星テチス(上)とディオ-ネ(輪とテチスの影(右下)が映っている)

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土星の衛星ディオ-ネ

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土星の衛星ミマス

 

太陽圏というのは、太陽が放出する電気を帯びた高速の粒子(太陽風)が届く範囲のことで、太陽からの半径が180億キロメートルと推測されており、1号はさらに遠い約190億キロメートルの場所を時速60000キロメートルで飛んでいる。

星間空間は、恒星と恒星の間にある空間で、太陽の光がほとんど届かず、水素などのガスや塵がわずかにあるだけだ。ここでは太陽風の影響を脱し、銀河宇宙線(注2)のエネルギーが強くなる。
宇宙の様々な場所から飛んできた電子の密度が太陽圏より高く、1号の観測機器が電子密度の増加を検出し、昨年8月25日ごろに星間空間に入ったと結論したという。
(注2)銀河宇宙線;87%が陽子、12%がヘリウムの原子核、1%がリチウムやスズなどの原子核からなる粒子群。

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ボイジャーの軌跡 (2013.9.22 読売新聞)

現在は、地球や火星など8個の惑星(冥王星準惑星)だけでなく、準惑星、彗星、氷や塵も含めて太陽系と呼ぶようになっている。太陽から数兆~十数兆キロメートルの場所には、氷や塵の集まった「オールトの雲」と呼ばれる領域があり、これが太陽系の果てと考えられている。

ボイジャー1号は動力が尽き、通信用電池も2025年頃に寿命を終える。1号がオールトの雲の縁に達するのは300年後、雲を通り抜けるのは30000年後だという。
ボイジャーの前に1972年3月と1973年4月に打ち上げられた惑星探査機イオニア10号、11号を憶えている人もいるでしょう。

実はこのパイオニアには太陽系外の知的生命体との遭遇を期待して、人間の姿や水素原子の構造、太陽系惑星の並び順などが描かれたアルミニウム合金製の15~20センチの板が積み込まれた。

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イオニアに搭載されたメッセージプレート
(男女の後ろの絵はパイオニアの略図で、それと比べると人間の大きさがわかる。
下の小さな円の列は、太陽と惑星を示し、矢印の曲線はパイオニアが地球から打ち上げられたことを示す。つまりこのメッセージの発信元が地球人であることを示す。
左側の花火のような絵は、地球から見えるパルサーの方向と周期を示し、このメッセージがいつ出されたかを知る手掛かりとなることを期待している)

それに続いたボイジャーにも、音でメッセージを伝える「ゴールデンレコード」が搭載されている。直径30センチの銅製円盤に金メッキを施したもので、動物の鳴き声、各国の挨拶、ロックやクラシックなどの音楽が納められ、カバーの表面には、半減期が約45億年のウラン328が塗られ、これを分析すれば、いつ作られたかが分かる仕組みになっている。


【レコードのジャケットとゴールデンレコード】

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ジャケットにはレコードの使い方と、地球の位置、時代とを示す記号が書いてある。

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ゴールデンレコードに刻まれた情報は10億年は消えないとされる。

地球以外の宇宙に、高度な文明を築いている知的生命体が、パイオニアボイジャーに遭遇し、そのメッセージを解析してくれることを期待したいが、有名なドレークの方程式(注3)によれば、この銀河系で我々と交信可能な文明の数は、楽観論で0.01、悲観論で0.0001という値が用意されている。
(注3)ドレークの方程式
N=N*×fp×ne×fl×fi×fc×fL
N;銀河系のなかの、進歩した技術文明世界の数
N*;銀河系のなかの恒星の数
fp;惑星系を持つ恒星の割合
ne;ある特定の惑星系のなかで、生物の存在しうる生態学的環境を持つ惑星の数
fl;適当な環境を持つ惑星のなかで実際に生物が誕生した惑星の割合
fi;生物の住む惑星の中で知的生物のいる惑星の割合
fc;知的生物の住んでいる惑星のなかで、通信技術を持つ文明人のいる惑星の割合
fL;その惑星の寿命のなかで、技術文明人の存在する期間の割合

ドレークの方程式に楽観的な数値を入れても、かなり奇跡的な遭遇になるようなのだが、ともあれボイジャーは私たちのメッセージを携えてこれからも未来へ飛びづづける。

私たちのメッセージに出会った知的生命体の驚く顔を見てみたい。
どんな顔をするだろう。