遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

小惑星衝突

絶望する間に、行動あるのみ
福井晴敏 『Twelve Y.O』 講談社

君も変っていく。ぼくも変っていく。
お互い、自分がどこへ
向かっていくのかは未だ分からない

誰も飢えていないところへ流れるニュースに、痛みは伴わない。
旗を振るような人類共通の関心事などこの世にはなく、
全人類を包括するような万能の思想も体制もない。
高村薫 『レディ・ジョーカー』 毎日新聞社

 

先日(2月15日)朝、ロシアのチェリャビンスク州に直径17メートル、重さ10000トンの小惑星が、音速の約50倍の速度、突入角度20度以下の浅い角度で大気圏に突入した。

隕石は、前面の空気層を2500倍に圧縮温度は数万度に達し、上空20キロメートルで、高温の空気層による加熱でバラバラに割れ爆発した。
割れた隕石は、時速64000キロメートル(秒速約18キロメートル)の速度を保って地球の大気を切り裂き、これによって圧縮された大気は後方に衝撃波を残し地上に落下した。衝撃波の威力は、ガラス1平方メートル当たり5万トンの力が加わり、その際、温度が10~30度上昇したと試算されている。

衝撃波は、4500棟の建物に被害をもたらし、1200人が割れたガラス片などで怪我をした。31億円以上の被害があったとされる。
この規模の隕石の落下頻度は、100年に一度。空中での爆発、衝撃波、地上での衝撃のエネルギーは、TNT火薬換算で50万トンに相当し、島型原爆の30倍以上とされている。

隕石落下の様子は、TVニュースでも繰り返し流されていたからご覧になった方も多いでしょう。
小惑星の衝突と聞くと、1908年ツングースカの隕石(直径約50メートル)が思いだされるが、この時は東京の面積に相当する森林の樹木がなぎ倒され焼け野原となった。

太陽系の中で、地球の近くを公転する小惑星地球近傍小惑星(NEA)という。
また、地球の近くを公転する彗星を地球近傍彗星(NEC)
NEAとNECを合わせて、NEO(地球近傍天体)と呼んでいる。

下記の図は、NEOのうち、太陽の0.3天文単位の範囲を公転する77個の小惑星の軌道を描いたものである(赤)。一番外側の青色の軌道が木星、地球は外側から3番目の青色の軌道である。(小さく「地球」と書かれている)
地球は、これらの軌道を潜り抜けるようにして公転していることがよくわかる。

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【2005年までに明らかにされたNEOの公転軌道のうち、太陽から0.3天文単位までの範囲を通過する77個の軌道を描いたもの(赤色)。中心が太陽。青色の線は惑星の軌道】

2012年11月1日現在、NEOは9412個(NEA9252個、NEC160個)が発見されているものの、このロシアに落下した小惑星は小さすぎて発見は難しかったのだろう。

小惑星の地球衝突といえば、今から2億~6550万年前に地球に衝突し、中米ユカタン半島の海底に直径180キロメートル深さ30キロメートルの超巨大なクレータを創ったものが有名だ。この時の小惑星の大きさは直径10キロメートル、衝突のエネルギーはTNT火薬換算で約100兆トンで、1億年に一度の衝突頻度であるという。

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2億~6550万年前にユカタン半島付近に衝突した小惑星のイメージ図

この時の衝突で、マグニチュード11の超巨大地震が起こり、高さ300メートルの大津波が沿岸を襲った。上空数百キロメートルの高さに舞い上がった大量のチリが太陽の光をさえぎり、冬のような気候が数カ月~数年続いた。植物は光合成ができずに死滅し、生物種の70%が絶滅したと考えられている。

さて、気候変動を伴う大きな被害をもたらす小惑星との衝突は予測されるのだろうか。
NEOの中でも地球と衝突する可能性があるのは、「潜在的に地球と衝突するおそれがある地球近傍小惑星(PHA)」だ。PHAは、地球に約750万キロメートル以下まで近接する公転軌道をもち、直径約150メートル以上の大きさの小惑星で、2012年11月1日現在、1343個発見されている。

このうち最も危険な小惑星だと考えられているのが、直径約1.1キロメートルの小惑星「1950DA」だ。2001年での予測では、「1950DA」は、2880年3月16日に、最大0.33%の確率で地球に衝突するというのだ。(2002年4月発表)

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電波望遠鏡がとらえた小惑星「1950DA」

小惑星は、惑星の重力の影響を受けやすいので、観測を繰り返して衝突の可能性を常に監視していなければならない。
まあ、800年以上も後のことだと安心もするが、観測しづらい小惑星が衝突してきたら、運を天にまかせるしかない。伊坂幸太郎の小説ではないが、衝突が確実で回避方法がなく地球が滅ぶとしても、それでも毎日「すべきことをする」だけしかないんだろうなと思う。

(注)ロシアに隕石が落ちた翌16日の日本時間4:24に、直径45メートル13万トンの小惑星2012DA14が地球に最接近した。地球までの距離27700キロメートル、気象衛星の距離が35800キロメートルだからその内側を通過した。

【出典】Newton 2013年1月号