遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

シェイクスピア没後400年(2)

よき友よ、イエスの名にかけて控えよ
ここに埋葬されし遺骨を掘りだすことを
この墓石を動かさざる者に祝福あれ、
わが骨を動かす者に呪いあれ

シェイクスピア墓碑銘)

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シェイクスピアのデビュー作とされるのは『ヘンリー六世』三部作です。後に続く『リチャード三世』を含めるとこの4作品が「ばら戦争」を扱ったシェイクスピア史劇の中核となります。

ここではシェイクスピアの史劇について少々ご紹介しておきましょう。
シェイクスピア史劇は、登場人物の相関関係が大変複雑です。それに史実とは異なる部分もあって出来事や事件が錯綜している部分があるうえ、時間的にもずっと短縮されていたりします。が、シェイクスピアの手にかかると逆に観劇する人には分かり易くなっているのではないでしょうか。とはいえ、読み進めるには王族の系図があったほうがいいかも知れません。

史劇を時系列に読むなら、『ジョン王』『エドワード三世』『リチャード二世』『ヘンリー四世(全二部)』『ヘンリー五世』『ヘンリー六世(全三部)』『リチャード三世』『ヘンリー八世』となりますが、ヘンリー八世治下の『サー・トーマス・モア』を最後に読めばいいでしょう。

エドワード三世』から『リチャード三世』までがプランタジネット、その傍系となるランカスター派ヨーク派の物語で、ばら戦争を収束させるヘンリー七世チューダー朝)を経て、『ヘンリー八世』へと続くので、これらの作品群は一大叙事詩ともいうべき壮大な歴史巨編を構成しているのです。

 

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モンモの書棚にあるシェイクスピア本(部分) 相当に古いです。

 

もちろん、この時代の英国の歴史を知ってから読むほうが断然面白く読めるのは確かなので、下記の2冊を特にお勧めしておきましょう。
トレヴァー・ロイル 『薔薇戦争新史』 彩流社 2014年
エドワード三世からヘンリー七世までの血で血を争う一族の史実が書かれています。

・ジョセフィン・テイ 『時の娘』 早川文庫 1977年
シェイクスピアで「甥殺しの背むし男」として後世に強く印象付けられることになったリチャード三世像が、果たして本当にそうなのか。史実をもとに真のリチャード三世の実像を求めていく歴史ミステリー。シェイクスピアもびっくりのリチャード三世像が読者の前に提示されていきます。

ただ歴史好きの人にはともかく、そうでない人には王族の系譜や人物の相関関係がややこしいので、一般的には史劇よりも喜劇や悲劇に分類される作品のほうが馴染みやすいのも確かです。

その意味では『ヴェニスの商人』『マクベス』『ハムレット』『ロミオとジュリエット』が初めての方にはお勧めです。特に『ヴェニスの商人』で欲得なシャイロックを舌鋒鋭くやり込め恋人の親友を救うポーシャには喝采を送りたくなります。

これに匹敵する切れ味を見せるのは『エドワード三世』で、エドワード三世に言い寄られたソールズベリー伯爵夫人が切り返す場面でしょう。この作品がシェイクスピアの作品か否かの論争が長らくあったのですが、一読した読者は「やっぱ、シェイクスピアだわ」と思うことでしょう。

シェイクスピアが死んで400年も経つというのに、1623年に出版された初版本(ファースト・フォリオ)が3億円以上で落札されたり、聖トリニティ教会シェイクスピアの埋葬場所を地中探知レーダーで調査したら「頭蓋骨」がないのではないかなどと、何かと話題を提供してくれます。

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ファース・トフォリオ

 

シェイクスピアの「頭蓋骨」に関していえば、1879年の発表では、18世紀後半に「頭蓋骨」が何者かに持ち去られたようなのです。シェイクスピアの墓碑銘「この墓石を動かさざる者に祝福あれ、わが骨を動かす者に呪いあれ」に挑戦したのではないかと言われています。

ともあれ、人間心理の表裏を様々に描いて見せたこの天才の作品を読むにつけ、時代が違い文明は進化しても、人は本質的には何も変わらぬという思いになってしまうのはモンモだけではないでしょう。