遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

シェイクスピア没後400年(1)

When we are born,we cry that we are come
To this great stage of fools.
人間、生まれたときに泣くのはな、
この阿保どもの舞台に引き出されたのが悲しいからだ。
(『リア王』より)

There are more things in heaven and earth,Horatio,
Than are dreamt of in your philosophy.
この天と地のあいだには、ホレイショー、
人智など及ばぬことがいくらでもあるのだ。
(『ハムレット』より)


シェイクスピアが死んで今年4月で400年になります。
アメリカのオバマ大統領がイギリスを訪問した時に『ハムレット』を観劇したという記事をみて、そうか400年になるのかと改めて思ったのでした。

 

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没後400年になるとは知らずに、実は3月以降、再読も含めてほとんどシェイクスピアしか読んでいませんでしたので、不思議な縁を感じたのでした。

学生時代に新潮世界文学『シェイクスピアⅠ・Ⅱ』(福田恆存訳)の15作品を読んでからすっかりシェイクスピアのファンになって以来、シェイクスピアは福田訳と決めていたのですが、彼は全作品を訳したわけではないのです。

後に、単行本の全集で『コリオレイナス』『あらし』『十二夜』『リチャード二世』を「補巻」という形で新潮社から出していますが、それでも、この4作品を合わせても19作品しか訳出していないのです。

実はシェイクスピアの作品は、正典と言われるものが37作品あります。これに近年正典入りした『エドワード三世』、ジョン・フレッチャとの共著と判明している『二人の貴公子』、そして一部にシェイクスピアの加筆が推定されている『サー・トーマス・モア』を入れて全部で40作品もあるのです。

本当は原書で読めばいいのですが、中世の英語で書かれ、当時の風俗、言葉遊びなどが頻繁に出てくるので、注釈書があっても大変骨が折れます。原文は詩の形式で書かれ、韻を踏んだり、音声にすればリズムがありますから、専門家の知識を持ち、文学的素養があって、詩的センスのある辻邦生のような人でないとなかなか文学作品としての翻訳は難しいものがあるでしょう。

今は小田島雄志訳が一般的のようですが、小田島訳は残念ながらモンモは1作品しか読んでいませんので、何ともいえません。新しいところでは、筑摩書房から松岡和子訳を現在も刊行中です。

なので、訳本で良しとしなければと思いつつも、訳者によって原文の解釈が随分と違ったものになってしまいますから、心のどこかにもどかしい想いを残してしまいます。だから、「いつか原書で読んでやる」という野望を今はまだ持っていようと思うのです。

シェイクスピアの作品一覧(注1)を記載しておきましょう。

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(注1)筑摩書房シェイクスピア全集全8巻を基に、モンモが読んだ福田恆存訳と松岡和子訳の一覧を記載。網掛け部分が読んだ作品になります。福田訳『リチャード二世』は出版されたのですがモンモは持っておりません。

モンモが持っているシェイクスピア本は下記の通り。
"THE MERCHANT OF VENICE" First edition 1926 reprinted 1969
"JULIUS CAESAR" First edition 1949 reprinted 1971
"MACBETH" First edition1947 reprinted 1973
"HAMLET" Second edition 1936 reprinted 1972
(注2)上記はいずれも CAMBRIDGE UNIVERSITY PRESS
新潮世界文学 『シェイクスピアⅠ・Ⅱ』福田恆存訳 全2巻 新潮社
シェイクスピア全集 福田恆存訳 全15巻 補3巻(注3) 新潮社
(注3)補巻となる『リチャード二世』のみ持っていない。単行本の全集は旧漢字、旧仮名遣いなので慣れていないと大変読みずらい。新潮文庫にはまだ福田訳があるようだ。
シェイクスシェイクスピア全集 全8巻 筑摩書房 (訳者多数)
シェイクスピア全集 『ベニスの商人』『マクベス
          『シンベリン』『ペリクリーズ』
          『ヘンリー六世(全三部)』『リチャード二世』
          『ウィンザーの陽気な女房たち』(注4)
(注4)上記7作品はいずれも松岡和子訳、筑摩書房(新訳)
エドワード三世』河合祥一郎訳 白水社 2004年
『サー・トーマス・モア』金田綾子訳 西田書店 2008年
『二人の貴公子』(注5)大井邦雄訳 早稲田大学出版部 2002年 
(注5)『イギリス・ルネサンス演劇集Ⅱ』に収録、ジョン・フレッチャーとの共著

先日、蜷川幸雄さんが亡くなりました。蜷川さん演出のシェイクスピアを見に行こうかと思っていたところでしたので残念でなりません。病気療養中とは知らなくて、元気で活躍しているものとばっかり思っていたのです。
シェイクスピア没後400年の同じ春に蜷川さんが亡くなったのも、きっと何かの縁だったのでしょうね。