遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

人間の「知」を求めて 科学と芸術の世界へ

汝自身を知れ、さすれば神と宇宙を知るであろう。
アポロン神殿)

幸福の技術とは、・・・掛け値なしの金剛石的な
強靭さを秘めた知性のことである。
茂木健一郎

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ラファエロアテナイの学堂』1509~10年ラファエロの間、教皇宮殿、ヴァティカン美術館

 

ここに一つの絵がある。
16世紀に、ラファエロが描いた『アテナイの学堂』である。
この絵には、これが描かれた時代までの、1500年間の哲学者たちが一同に会している。

ルネサンス人文主義の象徴となる絵である。
プラトン(左)とアリストテレス(右)の二人を中心にして、その周りに、
ソクラテスエウクレイデスなどの哲学者たちがいる。

この絵が描かれてから、500年が過ぎた。
歴史を俯瞰すれば、この500年とそれまでの1500年は、文明という意味でなら、
この500年のほうが著しい進歩を遂げたといっていい。

地動説、万有引力の法則、進化論、相対性理論量子力学、DNAの発見、
宇宙の起源への探求、医学、工学・・・と現在でいえば、
自然科学の分野に関する知見は、圧倒的のように見える。

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ダ・ヴィンチ ヘリコプター

 

昨年TVで、大勢の学生を相手に、
一人の先生が、対話方式でアリストテレスの講義を行っているのを見た。
ハーバード大学マイケル・サンデル教授の授業であった。

ギリシャ哲学の正当な後継者は、現代物理学であって、「哲学」はもはや、
解体したのではないかと考えていた私には、とても新鮮だった。

この社会に生起する問題の数々を解決する手立てを、アリストテレスカント
ジョン・ロールズに求め、その社会的解決策を探る時に、考え、論議することができる。

そうだ、「哲学」はまだ死んではいない。
社会的問題を解決する道具を、まだ豊富に与えてくれる。

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ダ・ヴィンチ グライダーまたは羽ばたき飛行機

 

現代では、自然科学も人文科学も、それぞれに細分化された専門領域を持ってしまった。しかし、本来、『アテネの学堂』が象徴するように、「知」に専門領域という区分けなどない。

「真実」という「果実」を求めることが、人間の脳にとっては「喜び」であり、
そのこと自身が何物にも代え難い報酬だった。
得られた真実は、人類史に永遠に残る普遍の真理であるのだから。

これが、人間という生命体のもつ「知」の指向性に他ならない。
専門分野に閉じ籠もらず、人間のあらゆる知見を疾走するがごとくに渉漁し、
それらを自らの中に凝縮し位置づけ、新しい価値を創造する。
それこそが、本来のアカデミズムだ。

そのように走る探求者の姿が、次第に光輝いてくる。
今日においてプラトンソクラテスの精神を受け継ぐアカデミズムの姿は、
疾走と凝縮の中にこそある。そのことを、一人ひとりが銘記せよ。
茂木健一郎

このささやかなプログが、人間にとっての本来の「知」を探求しようと思う皆さんの、きっかけになればと願う。

 

【出典・参考文献】
茂木健一郎 『今、ここからすべての場所へ』 筑摩書房 2009年
茂木健一郎 『疾走する精神』 中公新書 2009年
マイケル・サンデル 『これからの「正義」の話をしよう』 早川書房 2010年
ビューレント・アータレイ
キース・ワムズレイ 
ダ・ヴィンチ 芸術と科学の生涯』 日経ナショナル ジオグラフィック社 2009年