遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

ダ・ヴィンチ サルバトール・ムンディ

良い画家には目的が2つある。
ひとつは人間を描くこと、
もうひとつはおのれの魂の意図を伝えることだ。

画家の最大の目的は、立体を平面な面に描きながら、
それが平面から切りはなされ、立ちあがるように表現することだ。
ダ・ヴィンチ

 

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レオナルド・ダ・ヴィンチ 『サルバトール・ムンディ』 1500年頃
(ロバート・サイモン氏提供、AP=共同)

 

肖像画においてダ・ヴィンチは、いきなり真正面から対象の本質を摘出する。
これが、ダ・ヴィンチの絵の特質だと考えている。
大胆に、そして繊細に、見る者を圧倒する。

ボッテチェルリラファエロのように華やかではなく、写実的にすぎることもなく、
その人物の魂が浮き立ち、語りかける。

ダ・ヴィンチの絵を支えている技術がある。
黄金四角形(縦横比 1:1.618)、黄金三角形(三つの内角 72度、36度、72度)、
ピラミッド構図、遠近法など、光の考察や人体構造への科学的な観察に裏打ちされた技術だ。

「数学者でない者に私の作品を語らせるな」とすら言っているくらいだ。

しかし、そうした技術もさることながら、何よりもその人物の魂を摘出してしまう力量こそ、彼が「肖像画を描かせたら彼の右に出るものはいない」と言われる所以だ。

もちろん、実際にイエスを見て描いたわけではないが、モデルはいただたろう。
そのモデルに、ダ・ヴィンチは、「イエス」を描きこんだ。
「おのれの魂の意図を伝え」んがために。

『サルバトール・ムンディ』発見のニュースを知った時、正直驚いてしまった。
ダ・ヴィンチに、こうした絵があることを知らなかったこともあるが、
それが17世紀以降行方不明になり、一部の人々の手に渡りながら、21世紀初頭に再発見されるとは・・・。

ニュースの写真をみて、いかにもダ・ヴィンチらしい絵だなと思う。
「イエスに、正面から切り込んでいたんだ」と、思わずニヤッとしてしまった。

様々な疑問が湧いてくる。
この絵はどのようにして描かれ、どんな運命を辿ってきたのか、
どうしてその絵がダ・ヴィンチの絵だと特定されたのか。

今後の情報公開に期待しよう。

それにしても、と思う。
ダ・ヴィンチが描く、こうした人類の至宝を、美術館でいつでも見られる日が来ないものだろうか、と。
コレクターの所有物なのだとしても、それはまた私たち人間の宝でもある。

 

【ニュース内容】2011.7.12

ダ・ヴィンチイエス・キリストを描いた油絵がアメリカで見つかり、ロンドンのナショナルギャラリーで11月に展示される。ダ・ヴィンチの作品発見は、20世紀初頭以来で、約2億ドル(約160億円)以上の価値があるとされる。

絵具の顔料、筆のタッチから本物と鑑定された。
(注;左利きのダ・ヴィンチの筆遣いには独特のタッチがあるとされる)

ダ・ヴィンチの『サルバトール・ムンディ(救世主)』は1500年頃制作された油絵で、右指で天を指し、左手に水晶玉の球体を持ったキリスト像である。

17世紀には英国王チャールズ1世のコレクションだったことが知られているが、その後行方不明になり、1763年に競売にかけられ、1900年には作者不明のまま英国のコレクターに売却された。
その親族が1958年に45ポンド(現在のレートで約6000円)で売却した。

2005年に米国のオークションで現在の所有者(アメリカの美術商組合)が所有している。
同組合のニューヨークの美術商、ロバート・サイモンは、展示会には出すが絵を売却するつもりはないという。

【参考文献】
ダ・ヴィンチ 『レオナルド・ダ・ヴィンチの手記』 岩波文庫 杉浦民平訳
佐藤幸三 『モナ・リザはなぜルーヴルにあるのか』 実業之日本社 2011年
ビューレント・アータレイ、キース・ワムズリー
ダ・ヴィンチ 芸術と科学の生涯』 日経ナショナル ジオグラフィック社 2009年
「特別展ダ・ヴィンチモナ・リザ25の秘密~」実行委員会
『特別展 ダ・ヴィンチ ~モナ・リザ25の秘密~ 公式プログラム』 2010年