遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

現代戦はいかに始まるか

ふさわしい場所におかれた一人のスパイは、
戦場における二万人の兵士に匹敵する
(ナポレオン)

間を用い、間を行うは兵法の大事なり
山鹿素行
(注)「間」は、スパイ。「間者」「間人」。

 

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B-2ステルス爆撃機(米国)

 

中国古典には多くの「兵法書」がある。
武教七書といわれる、『孫子』『呉子』『尉繚子(うつりょうし)』『六韜(りくとう)』『三略』『司馬法』『李衛公問対』などがよく知られている。

或いは日本にも山鹿素行(兵法家、思想家)の「山鹿流兵法」があり赤穂藩長州藩に伝わった。また、かのマキャベリにも『戦術論』というのがある。
そして近代からはクラウゼヴィッツの『戦争論』、マハン海軍戦略』など、人間は古来から戦争を考えてきた。

ロシアのバルチック艦隊日本海海戦でせん滅した、日本が誇る戦術家、秋山真之もマハンの影響を受けていると言われる。

科学技術の発達は、戦争をより破滅的なものにし、戦争はまた科学技術を進化させた。現代になっても、スパイ衛星など宇宙にまで、国の覇権をめぐって争いは続いている。

人間の歴史に、戦争のない時代はなかった。

平和主義者にとって、人道上決して許されざる戦争という名の殺戮は、人々の願いとは別のところで準備されてきた。第一次大戦後の国際連盟も、第二次大戦後の国際連合も、戦争をなくすために設立されたにも関わらず、戦争を無くすことはできなかった。

人間は平和を願いながら、一方で戦争の準備をやめない。

どんな兵法書にも、情報戦の重要性が書かれている。
百金を愛(お)しみて、敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり孫子
(金を惜しんで、敵の情報を集めないのは、国を滅ぼしたり国民を死なせる大馬鹿者だ)

最近の報道によれば、日本の在外公館のコンピュータがウイルスに感染した。

検出されたウイルスは感染端末を中国国内の複数のサーバーに接続させ、ユーザIDやIPアドレスなどのシステム情報を外部に送信させたり、プログラムを勝手に起動させたりしていたという。

情報の送信先には複数のサーバーが指定されており、そのうち少なくとも2つは中国国内のサーバーであることも判明した。このサーバーが登録されたドメインは中国の業者が管理するレンタルドメインで、過去にもたびたび標的型攻撃に使われ、2009年~2010年にかけてグーグルなど約30社を狙ったサイバー攻撃オーロラ作戦」でも使われたものであった。

少し前にも、自衛隊の装備を作る複数の日本企業も、同じようなウイルスに感染し、また国会議員の端末も感染していたと新聞にあった。

重要な情報の流出は確認されなかった、と言われているが、果たしてそうなのか。

21世紀は、コンピュータとバイオテクノロジーの世紀」と捉え、これを基にして、教育を含め国家の基本戦略を作っているのは米国である。
だから、陸、海、空、宇宙に次ぐ第五の領域を「サイバー空間」として、「戦争」に備えている。

そう、もうお分かりのように、現代の戦争は、敵国の国家中枢へのコンピュータ攻撃から始まる。自衛隊の通信網を破壊し、政府・霞が関の情報通信、交通、金融、電力などの基幹産業のコンピュータを機能不全にさせる。

そのうえで、或いはそれと並行して実戦部隊を動かしてくるのだ。

米国では、ハッカーは英雄であるが、日本では、悪者である。日本でハッカーの世界大会を開催しようとしたら、「そんな悪い奴らを集めてけしからん」と批判され、中止せざるを得なかった。
相次ぐウイルス感染を受け、その対策のため政府は大掛かりな「なんとか」会議を立ち上げた。

こうしたことを聞くにつけ、なんとも言えない想いにかられる。
「この国は、いったいどうしてしまったのだろう」
天才的なハッカーは、この国を救うかも知れないし、大勢の人を集め「なんとか」会議を作っても、ことの本質がわかるわけではないだろうに。

単なる「ウイルス」に、いかに悪さをさせないか、ぐらいにしか考えていないのかも知れない。

その「何とか会議」の情報を公開するのだろうか。日本をウォッチする国にとっては、なんとも嬉しい話だろう。日本が自ら情報を提供してくれるなら、その対策も立てやすいというものだ。

大勢の人が関与していて、TVにも顔が映るし、情報が漏れることも考えていないように見える。多分、日本政府の人たちは、外国からの「ウイルスの侵入」の意味を理解していないのではないか。

ウイルス攻撃は、現代の戦争の一つの姿を示している。
ことは国の安全保障の問題なのである。

冒頭のナポレオンの「スパイ」、山鹿素行の「間」を「ウイルス」という言葉に置き換えてみればいい。一時代前の「スパイ」は、現代ではコンピュータ「ウイルス」である。情報収集はもとより、(情報の)破壊活動、経済活動の混乱を引き起こす。

北斗の拳」風に言えば、日本は「すでに死んでいる」のかも知れない。
「敵国」は、まさに兵法書に書いてある通りに行動しているだけである。
なにも新しいことをしている訳ではない。

せめて政治家になるくらいなら、国の安全保障を担う責任者として、上にあげた兵法書を全部とまでは言わないが、せめて4~5冊くらいは読んでおいて欲しいと願うばかりだ。
サイバー戦争は、すでに始まっているのである。