オレの答案返してくれ~!
あの頃もっと勉強しておけば良かった、とずっと思っていた。
時間は取り戻せないが、オレは今勉強している
(モンモの高校の同級生)
レオナルド・ダ・ヴィンチのメモ
ダ・ヴィンチは大量の血をインクとして使っている。
全てのアルファベットが鏡文字(鏡に写すと正常に読める文字)になっている。
大学受験を控えた高校三年の時の話しです。
モンモの席の右隣りに、マツの座席がありました。
水泳部のエースで、授業中はいつも寝ていました。
数学Ⅲの授業が終る頃に目を覚まし、虚ろな眼差しでモンモに小声で聞くのです。
「難しいか?」
寝ていて「難しいか?」も何もないだろうに、
それほど親しくはないマツに「まぁ~ね」。
高校三年の文系でも数Ⅲの単位は取らなくてはならず、受験科目ではないのに、試験は120点以上を取らなくてはなりません。
(数学のテストは一年次から200点満点で、120点(6割)未満は赤点で追試になるのです)
数学の定期テスト時間中のことです。
マツは、最初から隣りの席でスヤスヤと寝入っていました。
横目でちらりとその姿を見て、
あら、まあ、追試間違いなしだね、と思いつつ問題に没頭していました。
テスト時間は、120分。
終了のベルが鳴りました。
先生の「ハイ、終了。答案を回収して下さい」という声で、
教室が少しざわめいた頃、マツは両腕を上にあげて大きく欠伸をしました。
マツのお目覚めです。
2時間も熟睡していた表情はスッキリ、答案用紙は真っ白。
「苦悶」の跡が全く見られない感動的な「白」なのです。
そして何と、ここからマツの大立ち回りが始まるのです。
マツは、モンモの後ろの席のヌマっちの机にあった回収前の答案を、
あらかじめヌマっちの名前を記入しておいた、自分の白紙の答案とすり替え、
ヌマっちの「名前」を消しゴムですばやく消して、自分の名前を書き、
答案回収にまわそうとしているではありませんか。
カンニングなどという姑息な手段ではないのです。
「すり替え」なのです、ス・リ・カ・エ。
なんと大胆不敵な一瞬の行動でしょう。
ヌマっちはよそ見でもしていたのでしょうか、答案は、回収されて前の方へ運ばれて
行きそうになりますが、自分の答案の異変に気づいたヌマっちは、青ざめた顔をして、思わず答案を運ぶ生徒に向かって叫んだのでした。
「オレの答案、返してくれ~!」
モンモとマツは、静かに座り、じっとことの成り行きを見守っていました。
・・・・・・・・・・・・・
社会人になって随分経った時の高校の同窓会、マツの短い近況報告がありました。
彼が子供の学校のPTA会長をしていると言ったら、
「オー!」という歓声があがるのです。
そう皆、マツの高校での生活を知っている同級生には、マツがPTA会長をしているなんてあり得ないのです。
そしてマツは次のように続けたのです。
「オレは、高校時代、全く勉強しなかった。
けど、あの頃もっと勉強しておけば良かった、とずっと思っていた。
時間は取り戻せないが、オレは今勉強している。」
卒業後、マツは、どんなに勉強することが大切か身をもって知ったというのです。
先生はじめ、当時のマツを知る同級生は、皆心からこの話しに大きな拍手をおくったのでした。
そう、学ぶに遅すぎるということはない、マツよ頑張れ、と。
それにしても、あの答案回収の時、被害者はヌマっちではなく、
モンモの可能性もあったんですね(笑)。
高校生諸君、受験シーズンです。
答案回収を確認するまで、ユメユメ油断してはなりませんぞ。