遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

ダークマター(暗黒物質)

私は、砂漠で小石や貝を拾って遊んでいる
子供のようなものだった。
真理の大海はいまだ発見されることなく
目の前に広がっている。
ニュートン

 

本当の論理というものは、しばしば直感に近くなる。
膨大な、サイエンスの探求がないところに
本当の直感も働かない。・・・

チョコザイに勉強して、何かがわかると思ったら大間違いだ。
何かがわかるのではなくて、
何がわからないのかがわかる程度のところが、
人知というものの限界かもしれない。
林望

 

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【A】ハッブル宇宙望遠鏡が「とらえた」暗黒物質
(本来は見えない暗黒物質の分布を銀河のゆがみから推定し、青く示している)

 

下記は、宇宙にあるエネルギーの内訳になります。

星・銀河・・・・・・・・0.5%
原子・・・・・・・・・・・4.4%
ニュートリノ・・・・・・0.1~1.5%
ダークマタ―・・・・22%
暗黒エネルギー・・73%

つまり、この宇宙の5%が物質として私たちが知っているものの、なんと95%の正体が分かっていないのです。今日は、そのうちダークマタ―(暗黒物質と言われるものについて書いてみましょう。

地球は秒速30キロメートルで太陽の周りを回っていますが、さらに太陽系自身が銀河系を秒速220キロメートルで公転しているのです。地球は太陽の重力で、太陽系は天の川銀河全体の重力でつなぎ止めてもらっています。

しかし、銀河系全体の星やガスの質量をすべて足しても、秒速220キロメートルで動く太陽系をつなぎ止めておく重力はないのです。

1933年、フリッツ・ツビッキーは、かみの毛座にある銀河団の総質量を銀河団の光の量から算出し、同時に銀河団に属する銀河の動きから総質量を算出したのです。すると運動速度から算出した総質量が400倍も質量が多かったのです。

これを説明するには、目に見えない重力源が存在するとかんがえるしかないとして、それを「ダークマタ―(暗黒物質)」と名付けたのでした。

1960年代、アメリカの天文学者ヴェラ・ルービンドップラー効果の観測で、遠くの銀河での多くの銀河の回転速度を調べ、銀河の回転速度が中心から遠く離れても遅くならないことを発見しました。

重力の影響は距離が離れるほど弱くなるので、銀河の外側にある星ほどゆっくり動くはずです。それが同じ速度で動いているということは、眼に見える星やブラックホール以外にも銀河の星を引っ張る重力源があると考えなければなりません。

その重力源は、銀河の中心部から離れるほどたくさん存在することになります。

このダークマタ―を「見る」ことができるようになってきました。
重力レンズ効果を使う方法です。

遠くの銀河からの光は、その途中に重力源があると曲げられてしまうのです。大きな質量の塊があると、遠くからくる光をぐにゃりと曲げてしまうのです。これを重力レンズ効果といいます。
その質量の塊が不均等な塊だと乱視のように像が歪んでしまいます。

 

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【B】エーベル2218で発見された重力レンズ現象(STScI/NASA
(アーク状にゆがんで見える銀河)

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【C】エーベル2218で発見された重力レンズ現象を説明する概念図(STScI/NASA

 

この重力レンズ効果を観測することで、いま暗黒物質がどこにどれくらい存在するかを示す分布図が作成されるようになってきたのです。そして、宇宙全体の暗黒物質は、これまで私たちが知っていた物質の6倍前後にもなる驚くべき結果になっていることがわかったのでした。

暗黒物質は、原子とは異なる物質と考えられています。光を出さず、他の物質とも反応しない。巨大な銀河団と衝突しても、暗黒物質の塊は幽霊のように通り過ぎてしまうのです。

 

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【D】二つの銀河が衝突したあとの様子
(赤が普通の物質、青が暗黒物質暗黒物質は、銀河に衝突してもスッと通り過ぎてしまい、普通の物質は衝突で遅れをとってしまった。このあと、普通の物質(赤)は暗黒物質(青)の重力に引っ張られて追いついていく。)
(Credit:X‐ray:NASA/CXC/CfA/M.Markevitchet al.;Optical:NASA/STScI;Magellan/U.Arizona/D.Clowe et al.;Lensing Map:NASA/STScI;ESOWFI;Magellan/U.Arizona/D.Clowe et al.)

 

現在では、暗黒物資の大量の素粒子が銀河全体を包み込むように存在しているのではないかと考えられています。それを検出するためのXMASSという暗黒物質検出装置が岐阜県神岡鉱山地下に作られています。

また、スイス、ジュネーブ郊外にある史上最高エネルギーを発生させることのできる大型加速器LHC(大型ハドロン衝突型加速器で、暗黒物質の正体の最も有力な候補である超対称性粒子が発見されるのではないかと期待されているのです。

 

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【E】COSMOSプロジェクトで得られた暗黒物質と銀河の空間分布の相関を示す模式図
(白い部分が銀河の個数密度が高い部分。全部ではないが、総じて暗黒物質の多いところに銀河が集まっている。)(提供/Richard Massey)

暗黒物質は、宇宙が生まれたばかりのときにバラバラに存在していた天体の材料となる原子を、その重力で集めて星に仕立て上げてくれたのです。

初期の宇宙の中には暗黒物質の密度がごくわずかに濃い場所と薄い場所があり、密度の濃い場所の、重力が強い所に沢山の原子が引き寄せられて星になったと考えられているのです。

つまり、暗黒物質がなければ、私たちの住む宇宙の構造や、銀河、恒星は存在しなかったのです。こうしてこの宇宙の構造形成に重要な役割を果たしていると考えられている暗黒物質の検出が期待されています。

暗黒物質発見」の記事がいつ出るかと、ワクワクしながらニュースを待っているところです。

【図版】
【A】「ニュートン別冊(2011年11月)アインシュタインの世界一有名な式」
【B】谷口義明 『宇宙進化の謎』 講談社BLUE BACKS 2011年5月
【C】谷口義明 『宇宙進化の謎』 講談社BLUE BACKS 2011年5月
【D】村山斉 『宇宙に終わりはあるのか?』 ナノオプトニクス・エナジー 2010年10月
【E】谷口義明 『宇宙進化の謎』 講談社BLUE BACKS 2011年5月

【記事内容出典】
ニュートン別冊(2011年11月)「アインシュタインの世界一有名な式」
谷口義明 『宇宙進化の謎』 講談社BLUE BACKS 2011年5月
村山斉 『宇宙に終わりはあるのか?』 ナノオプトニクス・エナジー 2010年10月
村山斉 『宇宙は何でできているのか』 幻冬舎新書 2010年9月
村山斉 『宇宙は本当にひとつなのか』 講談社BLUE BACKS 2011年7月
村山斉 『宇宙はなぜこんなにうまくできているのか』 集英社 2012年1月
土居守 松原隆彦 『宇宙のダークエネルギー』 光文社新書 2011年9月