フェルメール 真珠の耳飾りの少女
いつのまにか 青い空がのぞいてる
思いつめた黒い雲は 逃げてゆく
君はどこで生まれたの 育ってきたの
君は静かに 音もたてずに大人になった
白い膚が 光に触れ まぶしそう
髪の色は 青い空に浮きたって
燃える夏の太陽は そこまできてる
君は季節が変るみたいに 大人になった
いつのまにか 「愛」を使うことを知り
知らず知らず 「恋」と遊ぶ人になる
だけど春の短さを 誰も知らない
君の笑顔は悲しいくらい 大人になった
ヨハネス・フェルメール 『真珠の耳飾りの少女』 マウリッツハイス美術館
君の絵だけが展示されている、薄暗い広いホールの遠く
大きな強化ガラスの向こう側に、
君は柔らかい灯に照らされて、小さく浮きあがって見えた
僕と君の間には、
たくさんの人々の、黒い群れがうごめいていて
君を最前列で観ようと、押し合っていた
およそ20分もして、ようやく君に辿りついたとき
語りかける言葉もなく、そのまま列から押し出されてしまった
初めて会ったはずなのに
君は変わらずに
少し寂しそうな視線を投げかけていた
きっと、変ってしまったのは僕のほうだった
記憶は時間を変容させて
君と僕の、昔と今を比べてしまっていた
君は、あの時と変らぬ戸惑いと
何かを訴える眼差しを残して
僕の前を通り過ぎた
君が振り向いてしまったために
ずっと昔にその絵の中に閉じ込められてしまった永遠を
僕は忘れることはないだろう
2012年6月30日ー9月17日
マウリッツハイス美術館展 (東京都美術館)