遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

二番になったスーパーコンピューター

一つの国が滅びの道を突っ走りはじめるときというのは、
恐らくこうなのだ。…

たとえようもなくひどい知力の衰弱が社会をおおっているため、
ほとんどの人が、ちょっと考えればすぐわかりそうなものがわからず、
ちょっと目をこらせばみえるはずのものが見えない。
立花隆天皇と東大 上・下』文藝春秋

願っているだけでは、いつになっても何も変わらない。
自ら変えようとしない限り、世の中は決して変わらない。

そして、時間が経過するにつれ、
その覚悟を現実の世界に持ちこむことは、
ますます困難になていく。
万城目学 『プリンセス・トヨトミ文芸春秋


以前、事業仕分けスーパーコンピュータの予算を削減しようと
なぜ一番でなきゃダメなんですか、二番じゃダメなんですか」と、
文部科学省の役人に、自らの勉強不足を暴露する質問をしていた女性の国会議員がいた。

日本が世界に誇るスーパーコンピュータ「」が、2012年6月の発表で世界ランキング2位となった。その国会議員のお望みの通り、1位の座をアメリカの「セコイア」に譲ったのだった。

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スーパーコンピュータ「京」
(注)高さ2.5メートルの匡体が24列×45台の計1080台。そのうち864台が計算を行う本体、216台がデータの保管用。

 

「京」の開発費は約670億(プロジェクト全体で1100億)。
一秒間に1京回(1兆の1万倍)の演算をするコンピュータだ。
2002~2004年の世界一だった「地球シュミレータ(初代)」の約250倍にもなる。

性能の核心部分は、CPU(中央処理演算装置)が8万個以上連携し、通信しながら計算するネットワークだ。CPUの数と性能から想定される計算能力の93.2%の能力を出すことができる。
ランキング上位のスパコンのなかに、90%を超える効率のものはない。

また使用する電力は最大で一般家庭3~4万戸分にあたる13メガワット。その内約3割を、太陽光やガスの自家発電でまかなっている。電気代は年間12億円、運用費は年間120億円。

発電に伴う排気から熱を回収し、75%以上の熱効率を実現している。従来のスパコン施設の約2倍の効率の良さだという。

スパコンなど何の役に立つんですか」と、先の国会議員の声が聞こえて来そうだが、スパコンの利用分野は多岐にわたっている。

HPCI戦略プログラム」によれば、生命科学(医療・創薬)、新物質・エネルギーの創成、地球変動予測、次世代ものづくり、物質と宇宙の起源と構造の分野から、31件が「京」を使用して研究が進められている。

例えば、『心臓シュミレーション』。
心筋細胞の収縮を分子スケールでシュミレーションし、様々な種類のタンパク質の動きを計算し、これらのタンパク質が心筋細胞の収縮にどう関わっているかを明らかにする。心拍1~2回分の計算に2年かかっていたのが、「京」では17時間で済むのだ。

今やスパコンによる先端科学分野の熾烈な競争が、国家の命運を握っていると言っても過言ではなく、それこそ重要な国家戦略の柱なのだ。

国会議員の数は衆議院480名、参議院242名、合計722名。国会議員一人当たりの費用は、政党助成金、議員歳費、それに国会運営諸費用を含めれば、年間約2億円になる。

合計で年1444億という膨大な国民の税金を国会議員に使っている。
国会議員一人当たりのボーナスも年600万円を超える。

しかし、衆参ねじれ国会のため廃案になる法律も多い。つまり、1444億円の費用をかけているのに、法律が作られず、国会議員の働きは極めて不十分で、国民の期待に応えていない。

法案に反対でもいい。各委員会で結論を出し、成果を出さなければ、国会議員は税金泥棒だ。野党にも、より良い法案にするための責任がある。反対ばかりでは、結果的に仕事をしていないと同じことなのだ。

こうした無能な国会議員のコストを半分にして、半額のコスト722億円をスーパーコンピュータ開発に振り向けた方が、技術立国日本の将来のために費用対効果としては、よほど理にかなっている。そう、財源はあるのに自分たちの身を削ろうとしない。

「前に進むのか、後ろに戻るのか」、某首相が属する政党の選挙スローガンにあった文言だ。この国のトップが、「日本は前に進んでいる」という認識には呆れるが、「日本のスーパーコンピュータの技術水準」と「この国の政治家の知的水準」の、この見事なまでの落差に言葉もない。

衆議院議員選挙の投票日が近いが、「よりましな候補者」というよりも、「よりダメでない候補者」に一票を、と願うばかりだ。

【出典】 雑誌 ニュートン12月号