遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

若杉冽 原発ホワイトアウト

人間とはしばしば、
見たくないと思っている現実を突きつけてくる人を、
突きつけたというだけで憎むようになる。
(塩野七海 『ローマ人の物語15』 新潮社)

人は誰でも、
無条件によいものを選ぶのではなく、
自分にとってよいものを選ぶものだ。
アリストテレス 『弁論術』)

さいわいなことに、
歴史は人間をその動機によってでなく、
行動によって判断する。
マイクル・クライトン 『緊急の場合は』 早川文庫)

 

これはフィクションという「ノンフィクション」だ。
つまり、フィクションという装いをしているが、内容はノンフィクションという意味だ。
著者は霞ヶ関の現役キャリア官僚だという。
なるほど電力業界、行政、政治に精通した者にしか書けない内容だし、しかも広く国民に知られてはならないような類いのものだ。だから、この本を書いたのは誰だ、と「犯人」探しがなされているようなのだ。

 

f:id:monmocafe:20190528220014j:plain

 

フクシマでメルトダウンした東電を始めとする電力業界、原子力安全・保安院が再編成された原子力規制委員会原子力規制庁原子力行政、「それらの知的、ビジネス的、キャリア的結合体である原子力ムラ」が、原発再稼働へ向けて着々と復活しつつある。

新たに作られた基準は、世界最高の安全基準といいつつ、最新型の欧州加圧型原子炉のように、メルトダウンした核燃料を受けとめるコアキャッチャーが格納容器の底部に設置されているわけでなく、しかも規制の対象は原発敷地内の設備に限られ、送電塔は対象外だ。

現場作業員の身元調査も不十分で、他国工作員が紛れていてもわからない。
テロには無防備だ。

アメリカのNRCのように4000人の最新の知見を持った職員がいるのとは違い、原子力規制庁の審査官は80人、しかもロートル。電力会社の社員に申請書類の記載の意味を教えてもらいながら、6000ページもの申請書類を数週間で審査することなど不可能だろう。

そしてこうした原子力推進勢力を裏で支える資金を生み出し、維持する業界、政・官のからくりが、リアリティをもって描かれている。
落選野党議員の面倒さえ見、マスコミ対策、利権を同じくする政治家への工作など、フィクションではないだろう。

まだC国との関係が今日ほど悪化していなかった数年前、知人との会合であるペーパーを見せてもらったことがある。
C国共産党の名で作られた30年後の日本の地図。

西日本はC国の支配地域となり、東日本はかろうじて自治を認められる、という地図。さすがに、インターネットからすぐに削除されたそうだ。
その後、未確認なので何とも言えないが、東京のC国大使館に隣接する広大な土地が、C国大使館の土地として購入されたという話を聞いたことがある。大使館の土地は治外法権だから日本の権力が及ばない、いわばC国の領土だ。

「今に沖縄もC国の領土だと言って来るんじゃないか」と、冗談で仲間と話していたら、少し前にそんな主張をC国の誰かがしていると新聞記事にあった。
沖縄の米軍基地反対勢力にも、C国の影響が及んでいると聞いたことがある。

 

こんな話を聞いていると、小説のなかで、電力会社の作業員に紛れ込んだC国の工作員が言う言葉はリアリティに過ぎる。

自分の国のど真ん中も守れないのに、尖閣を守れるはずなんてないだろうが・・・
原発の再稼働は、単に経済復興の文脈で語られてはならないだろう。
安全神話」が「原子力規制庁のお墨付き」に取って代わるだけなら、著者の、あるいはカール・マルクスの言はもっともだ。
歴史は繰り返される。しかし二度目は喜劇として。