遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

メニュー「誤表示」と「偽装」

日常の些事に、命あれ。
(山内康仁)

人間は、見たい現実しか見ないものだ。
ユリウス・カエサル

真実とウソとは同じ顔つきをしている。
(モンテニュー)

緊張の連続で、やってられないと思うこともある。
それでもその職に携っている以上、泣き言を言ったら負け…
この問題は単発のトラブルに見えるけど、実は根が深い。…
そうやってみんなが、
少しずつ小さなミスを積み重ね大きなミスに育て上げていく
海堂尊 『ナイチンゲールの沈黙』)

仕事が細分化されれば、人間から『良心』が消える。
伊坂幸太郎 『モダンタイムス』 講談社

できることをやる…黙々と、不器用に、でも、やることをやる。
それしかないだろうに、…・他にどうするって言うんだ。
伊坂幸太郎 『終末のフール』 集英社

 

最近、著名なホテル、百貨店などメニューと違った料理や商品を提供していた問題が連日報道されている。誤表示虚偽表示偽装表示偽装など、その報道記事の言葉もマスコミ各社各様だ。

 

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「手長エビとトマトクリームの自家製パッパラデッレ」

多くの記者会見で経営者は、悪意はなかったから、「誤表示」で「偽装」ではないと強調している。悪意があれば「偽装」と言いたいのだろう。
悪意など所詮当事者の主観だから、「誤表示」というのは勝手だが、メニューの「車海老」が「誤表示」で、本当は「ブラックタイガー」を提供したかったというなら、次のように言うべきだろう。

「車海老」は誤表示で、「ブラックタイガー」が正しいメニュー表示であった。
本当に提供したかったのは「ブラックタイガー」だったのだと。
しかしそうではあるまい。問題の本質は、「車海老」というメニューなのに、偽って「ブラックタイガー」を提供したということで、「ブラックタイガー」を「車海老」と誤って表示したことではない。

客は「車海老」を注文しながら、「ブラックタイガー」を食し、「車海老」の料金を支払ったということなのだ。「偽装」どころか「詐欺」なのではないか。だから料金を返金しようと言っているのだろう。
悪意の有無にかかわらずこれらの会社がしたことは、客観的には「車海老」を「ブラックタイガー」に「偽装」したということだ。

それにしてもと思う。日本人はいったいどうしたのだろう。
真面目で、正直で、約束を守り時間に正確で、責任感があり繊細で、謙虚実直な努力家日本人。特定秘密保護法など無意味なくらい能天気なスパイ天国の国、ナイーブでイヤなことはすぐ忘れ、NOと言えない。

だからこそ、世界の人々に愛され、時にはバカにされ、それでもニコニコと勤勉に仕事にいそしむ。そんな日本人のイメージはもはや古いのかもしれない。
それほどに仕事の現場はかくも荒れ果てているのだろうか。
経営者は、従業員の写し絵なら、現場の仕事のありようがこの問題の背景にあるのかもしれない。

人員減、コストカット、効率化、そして利益至上主義成果主義
従業員が日々汲々としていれば、客や消費者のことなど目に入らなくなるだろう。
おもてなし」の心は、意外とすさんでいるのかも知れない。
罰則や、規則やルールを強化したところで、現場の一人一人の「おもてなし」の心が涵養されるものではない。

もともと現場の人々が、当たり前のことを当たり前にしていれば、何も問題は起こらず、経営者もこうした問題で、頭を下げなくてもよかったろう。「当たり前」を支えていた実直さを失わせたものとは何か。
そこに切り込まなければ、企業の信頼は取り戻せない

コンプライアンス強化再発防止策、規則・ルールチェック強化・・・、マネージャの負荷は増え、従業員も余計なプレッシャーを受け続ける。果たして、そんな殺伐とした職場から、豊穣な「おもてなし」の心は生れるものだろうか。