遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

ダ・ヴィンチ 初期の人体解剖

レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯(18)

時間の使い方を知っている者は、
考えることによって成果をあげる。
行動する前に考える。
繰り返し起こる問題の処理について、
体系的かつ徹底的に考えることに時間を使う。

優れた者ほど間違いは多い。
それだけ新しいことを試みるからである。
一度も間違いをしたことのない者、
それも大きな間違いをしたことのない者に
トップレベルの地位を任せてはならない。

間違いをしたことのない者は凡庸である。
いかにして間違いを発見し、
いかにしてそれを早く直すかをしらない。
ドラッカー『現代の経営』)

 

ダ・ヴィンチが、生涯約30回ほど人体解剖を行ったことはよく知られている。
彼は、「人体について」という論文を書く計画をたててもいたようだ。
その最初の素描は、1489年、36歳のころの頭蓋骨の素描だ。

 

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この素描はダ・ヴィンチにとって、「人間」という生命体への興味・関心の象徴のようなもので、これから人体というものの不思議な存在に切り込んでいくという宣言に聞こえる。
もちろん当時の教会との関係では、軋轢もあった。
なぜなら、人間は神の姿に似せて造られたので、それを部分に分解・解体されるべきではないというのが、教会の考えであったから。
もっと後のことになるが、ある悪意をもった人物が「教皇と病院を前に、私の解剖学研究を非難し、妨害した」という。(1515年ローマ)

おそらくフィレンツェでのヴェロッキオの影響もあって、絵を描くために体の骨格や筋肉のありようを知る必要があったと思われ、解剖学について既に学んでいたのかも知れない。ミケランジェロも少なからぬ人体解剖を行っている。
しかし絵を描くためだけなら、その後何年にも渡ってあれほど詳細な解剖図を描くはずがない。

 

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当時の医学を支えていたガレノスヒポクラテスアリストテレスらから引き継いだ知識・学説を検証し、再評価したかったのではないか。
アリストテレスがいう「共通感覚」の所在が脳内にある3つの「室」のうち中央の「室」にあり、魂はこの共通感覚に宿っていると述べている。

 

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彼が描いた解剖図がすべて100%正しかったわけではない。牛の解剖から類推し、想像で描かれたものもあるようだし、上記の「脳の3室」のように当時の学説に当てはめて描かれたものもある。

しかし、彼の問いは続き、書こうとする内容のメモには様々な人体の動きに対する関心事項が延々と続く。
どの腱が眼の運動を引き起こし、その結果、片方の眼がもう片方の眼を動かすことになるのか。
眉毛を上下させることについて
眼を閉じたり開けたりすることについて・・
人間の発生について記述せよ・・
くしゃみとはなにか
あくびとはなにか
病気になること・・

今回は、最初期の素描となる頭蓋骨だけをご紹介するが、後に別の解剖図をご紹介するときに、ダ・ヴィンチが残したこれらの解剖図こそ、彼のルネサンス人としての特質、精神といったものを端的に表しているのではないかということについて掘り下げてみたいと思っている。

(続く)