遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

香港のアンブレラ

このまま黙って生きるより、
声を出して死んだほうがいい
(2014年9月、香港)

 

f:id:monmocafe:20190606221248j:plain

 

アヘン戦争(1839-42年)後、香港がイギリスへ割譲されてから155年がたった1997年7月、香港は中国へ返還された。
一国二制度のもとで特別行政区となり、2047年までの返還後50年間は、一定の自治権の付与と本土と異なる行政、法律、経済制度の維持が認められ、国際関係及び軍事以外では香港は高度な自治権を有している。

しかし、複数政党制が認められているものの、立法会(議会)70議席の半数は各種職能団体を通じた間接・制限選挙となっており、先進国における民主主義との比較では「欠陥民主主義」とされるくらい政治的権利は制限されている。

首長たる行政長官も、職域組織や業界団体の代表による間接・制限選挙によって選ばれ、任命は中国国務院よってなされる。香港に許されている自治は、「高度」ではあっても「完全」ではない。

 

f:id:monmocafe:20190606221504j:plain

 

今回の騒動は、この行政長官立法会議員直接普通選挙をめぐる対立に起因している。

2007年12月、中国は行政長官の普通選挙の2017年実施を容認したが、立法会議員全員の直接選挙には言及していない。
2014年8月、中国全国人民代表大会全人代)常務委員会は、行政長官候補は指名委員会の過半数の支持が必要で、候補は2~3名に限定すると決定した。
指名委員会は多数が親中国派で占められるから、事実上民主派からは立候補できないことになってしまう。

2014年9月27日、香港の学生・市民はこれに抗議してデモを行った。警備当局の催涙ガスや警棒から身を守るために傘を持参したことから、イギリスのメディアが「雨傘革命(Umbrella Revolution)」と呼び、以後この言葉が一般化した。
現在の行政長官が外国企業から秘密裏に報酬を受け取っていたことが発覚し、学生・市民は現長官の退陣をも要求して混乱は続いている。

 

f:id:monmocafe:20190606221724j:plain


結局、香港という自由で豊かな都市の首長ポストは、中国にとっては有望な利権ポストに見えるのだろう。

本土と同様に資本主義システムを「共産主義」王朝のために利用すればいいのだ。人民に選ばれたわけでもない共産党独裁政権の正当性はどこにもないが、自分たちの利権や特権さえ維持できれば「共産主義」という宗教さえ利用する。
そんな政治体制には、世界に誇るべきどんな理念もないというのに。

英歴史家ポール・ケネディは、読売新聞に寄せた記事『寛容な民主主義』(2014年10月19日)のなかでこう述べている。

自由と公正と正義を求める人々の期待は、邪悪な人間や憎悪、宗教や思想のネジ曲がった情熱、政敵による意見の封殺、投票結果の受け入れ拒否によって、至る所で打ち砕かれている。それどころか多くの場所で、投票そのものが嫌悪されている
私たちが当たり前に享受している自由や政治的諸権利は、世界的に見れば未だ普遍的な価値ではない。

 

f:id:monmocafe:20190606221929j:plain


ケネディは続ける。
民主主義のシステムは、天与のものではない。何度でも、勝ち取らなければならない。我々は甘い考えを捨てるべきだ・・・今、誰もが自身の民主主義的な自由を口にする。だが、それを獲得するまでには、長く困難な闘いがあった。
香港市民の闘いは、この自由のための誇りある闘いに連なっている。

(注)写真はウィキペディアから記載しました。