遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

マイクル・クライトン&リチャード・プレストン マイクロワールド

では、若い人間は、どうすれば自然界で経験を積むことができるのか?
理想をいえば、多雨林でーあの広大で居心地が悪く、危険にあふれ、それでいて美しい環境で、しばし時を過ごすことだ。そうすれば、先入観などはたちまち木端微塵に吹き飛ばされてしまうだろう。

自然はやさしくもなければ、好意的でもない。
自然に慈悲というものは存在しない。
努力したからといって、かならず報われるわけでもない。
生きるか死ぬか、ふたつにひとつだ。

マイクル・クライトン&リチャード・プレストン 『マイクロワールド 上・下』 早川文庫 2015.3)


3月に書店でふと見かけた文庫本の著者名になじみの名前を見つけ、「あれっ?」っと思い手に取りました。著者は「マイクル・クライトン&リチャード・プレストン」とあります。
マイクル・クライトンが2008年に亡くなった時、PCに彼の遺稿が見つかりそれが出版されたのが2009年。邦題名は『パイレーツ』。内容は海洋冒険小説ということで、SFではなく、購入はしたのですがまだ読んではいませんでした。
(新刊の単行本はすぐ絶版になってしまうのでとりあえず買ってしまいます)

なので、「あれっ?」だったのです。『パイレーツ』が最後だったのでは?、と。
どうやら2012年4月に日本で単行本出版されていたらしく、知らなかったのは不覚でした。

手にした本の題名は『マイクロワールド上・下』(早川文庫2015年3月)

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共同著者であるリチャード・プレストンは1994年に『ホット・ゾーン上・下』(飛鳥新社)の著者で、本の内容は最近アフリカで大騒動になったエボラ出血熱の大流行を予見させるものです。そのプレストンとクライトンのコラボとは、と意外な組み合わせに多少驚いたのも事実です。

実はクライトンが亡くなった時に見つかった遺稿は、『パイレーツ』だけではなく、1/4ほど書きかけた『マイクロワールド』の原稿、構想メモや資料が見つかっていたらしいのです。これらの遺稿・資料をもとにプレストンが小説を完成させたということでした。
なるほど、読めばクライトンらしい部分、プレストンらしい部分が結構判然としていて、しかも一つの完成された小説世界を創っています。

「次元変換」で人間が1/100のスケールになってハワイの大自然に放り込まれれば、昆虫ですら人間にとっては大きな脅威になることは間違いないでしょう。何やら昔の映画『ミクロの決死隊』を思わせます。『ミクロの決死隊』は、人間の体内での話ですが、『マイクロワールド』は蟻、ムカデ、蜂、ネズミ、蝙蝠といった昆虫や生き物が巨大な怪獣となって、人間の捕食者となるのです。現実世界は転倒し、人間は生きのびることができるのでしょうか。

物語の構想やストーリー展開、「次元変換」による人間のマイクロ化、極小化した兵器ロボット、ハイテク企業を調査していた調査員たちが体内から何かで切られて出血し謎の死を遂げるスリラーっぽい冒頭部分はクライトン、そして大自然のなかで生きのびるために大学院生たちが持てる知識と知恵の限りを尽くす部分はプレストン、おそらくはそんなところかと執筆担当を想像してしまいます。

う~ん、モンモなら1.7センチに縮小されて昆虫がうようよいる大自然に置き去りにされるなどまっぴらなのですが、小説のなかの大学院生たちは反目しあいながらも生きのびて元に戻り、犯罪を暴くために力を合わせ、犠牲者を出しながらも巨大昆虫たちと闘います。

ともあれ、クライトン最後の遺稿をまとめ上げてくれたプレストンの筆力に感謝したいと思う一冊です。
そういえば映画「ジェラシック・パーク」シリーズの第4作目『ジェラシック・ワールド』が公開されるようです。米国では6月12日、日本では8月7日といいます。これも楽しみです。

それにしても、クライトン海洋冒険小説とは結びつかないのですが、そろそろ『パイレーツ』を読んでみようかと思います。新しい発見があるかも知れません。