ダ・ヴィンチ ほつれ髪の女
人間よ、おまえには自分の種属がどう見えるのだろうか?
一体おまえはひとりで自惚れてるほど賢いものなのか?
われわれのあらゆる認識は感覚にはじまる。
(ダ・ヴィンチ)
先日、『レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想』展(Bunkamuraザ・ミュージアム)に行ってきました。その中から、いくつかの作品をご紹介しましょう。
【ほつれ髪の女】
ダ・ヴィンチ 『ほつれ髪の女』1506-08年頃 パルマ国立美術館(日本初公開)
『ほつれ髪の女』は、1627年のゴンザーガ家コレクションの売り立て目録343番「ほつれ髪の女、レオナルド・ダ・ヴィンチ作品で、素描風の」という記述に由来する。しかし、注文主・主題・制作年代を確認するための資料は発見されていない。
多くの研究者が『ほつれ髪の女』は、ダ・ヴィンチが1508年頃に描いていた作品群との関係で,聖母像の下絵と考えている。
あるいは、イザベラ・デスデのための作品の可能性もあるという。イザベラが、かねてより「敬虔で優しい性格がそのまま表れたような聖母の絵」を依頼していたからというのが理由だ。
ペドレッティは「レオナルドの卓越した美のなかでも、『ほつれ髪の女』の美は最高のものであり、『モナ・リザ』や『最後の晩餐』をも凌駕する。時空を超えて続く美として構想された作品」と書いている。
第三の【岩窟の聖母】
ダ・ヴィンチと弟子(カルロ・ペドレッティ説) 『岩窟の聖母』1495-97頃 個人蔵(日本初公開)
先にご紹介した2枚の『岩窟の聖母』(ルーブル版とロンドン版)とは別に、もう一枚の『岩窟の聖母』が日本初公開されている。(下記参照)
ダ・ヴィンチが、弟子(デ・プレディスやボルトラッフィオもしくはマルコ・ドッジョーノ)と制作したとされている。長年、存在が疑われてきたが、ミラノの古文書館で新たに発見され、1981年に様々な資料でその存在が確認された。
1991年、マラーニは、何世紀もの間フランスの個人コレクションの間で眠っていたルーブル版を原型とする知られざるバージョンを紹介したのである。
1990年代初頭に、現在の所有者が、科学調査と修復のために公にした。エックス線、赤外線、紫外線はもちろんのこと、種々の写真の調査の結果、マラーニはダ・ヴィンチ自身が弟子とともに仕上げたと結論づけた。
そして、様式や図像プログラムにおける改変からみてロンドン版より前のものとしたのである。ルーブル版との違いは、聖母の光輪であるが、これは後世の加筆という。
それにしても、『岩窟の聖母』が3つもあるとは。
『アイルワースのモナ・リザ』 16世紀 個人蔵(世界初公開)
このモナ・リザは、今回のような規模の展覧会では世界初公開という。
1991年にダ・ヴィンチの弟子のサライの死亡当時(1524年)の財産目録が発見された。そこには、1点のジョコンダ(日本でいうところの『モナ・リザ』)が100スク―ディの価値で記録されていた。その評価額は、多くの研究者が、ダ・ヴィンチの真筆と考えるほど高価なものである。
ルーブル蔵の『モナ・リザ』をフランス王フランソワ1世が手に入れるのに、サライの財産目録より高い金額を提示したというから、それとは別ものなのかと疑われた。
この『アイルワースのモナ・リザ』は、サライの目録にあった作品で、ダ・ヴィンチとサライの共作の可能性が高いというのだ。
現存する数ある『モナ・リザ』のなかで、20世紀に一貫して、人々を惹きつけた作品で、これまで未公開であったため、小さな図版でしか人目に触れることはなかった。
この絵の調査が、ある研究グループによって進められていて、その成果が出版される予定という。ルーブルのものより若い、ダ・ヴィンチによる未完の『若きモナ・リザ』という内容で。
その微笑みとともに、また謎が深まりそうだ。
【ダ・ヴィンチ考案/アルブレヒト・デューラー 『柳の枝の飾り文様』】
ダ・ヴィンチ考案/アルブレヒト・デューラー 『柳の枝の飾り文様』1506-08年頃
レオナルド・ダ・ヴィンチ理想博物館
ヴィンチ村出身のレオナルドであるが、この「ヴィンチ」は、紫色がかったユーラシアヤナギのことで、この柳の枝こそが、レオナルドの象徴的なエンブレム、一連の「柳の枝の飾り文様」の源となった。
ダ・ヴィンチは25年間、このモチーフの断片的な習作を描き、1498年頃には「レオナルド・ダ・ヴィンチのアカデミア」という銘を入れた6つのエンブレムに仕上げた。その複製は2点あって、その一つがデューラーのものである。
【出典】『レオナルド・ダ・ヴィンチ 美の理想』 2011-2012
そして、同時に『レオナルド・ダ・ヴィンチ展 in シアター』と銘打って、映画が上映されています。合わせてご覧になることをお薦めします。
2011年ロンドン・ナショナルギャラリーで、初公開となる『サルバトール・ムンディ』始め、ダ・ヴィンチの9点の作品が展示された時の模様を映画にしたものです。