遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

2014年 読書総括

あなたがすることのほとんどは無意味であるが、
それでもしなくてはならない。

そうしたことをするのは、
世界を変えるためではなく、
世界によって自分が変えられないようにするためである。
ガンジー


2014年は、61冊(論理的には52冊)の本を読みました。
(記事の最後の一覧表を参照して下さい)

なかなか読書スピードは上がらず、速読法でも学ぶ必要があるかなとも思ってしまいますが、そうした実用書を読んでもそれは所詮他人の方法で、参考にしつつも結局は自分の方法を見つけなくてはならないのでしょう。

ともあれ既に読むべき本は大量にストックされ、本箱の収納スペースを空けるために過去の積読本を並行して読まざるを得なくなっているのですが、積読本は分厚い長編が多く、ついつい怯んでしまいます。

既にブログでご紹介した本もありますが、2014年に読んだ本の中から、今年のベスト5(6冊)をご紹介しましょう。

1.白井聡『永続敗戦論』太田出版(2013年3月)

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著者がベルリンを訪れたのは2006年頃だというから、その時点で壁が崩壊して17年が経っている。ヨーロッパの中央ともいうべきベルリンのその中央部に巨大なモニュメントが建っていて、その碑文にはロシア語でこう刻まれていたという。

1945年、この地でわれわれはファシストどもを蹴散らした

要するに「ドイツ人よ、お前たちは負けたのだ」と書き込まれたのだった。
こうしたモニュメントを置き続けられなければならなかったドイツは、戦後を生き抜き、今やEUの政治的経済的中核国となった。

日本の戦後はどうだったか。ドイツとは異なり、中韓とは未だもめているし、アジアの中心となっているわけでもない。
この本を読むと、「戦後民主主義」「平和国家日本」といったフレーズが如何に空疎で欺瞞に満ちたものか得心がいく。

今日の日露、日中の領土をめぐる関係が、図らずも日本の戦後がどのようなものであったかを端的に示している。
私たちは本当の意味で「敗戦」を経験していないのかもしれない。
なぜなら、日本人の8月15日は「敗戦記念日」ではなく「終戦記念日」なのだから。

 

2.Reza Aslan  ”ZEALOT:THE LIFE AND TIMES OF JESUS OF NAZARETH”(邦題;レザー・アスランイエス・キリストは実在したのか?』文芸春秋(2014年7月))

この本の原題を記したのは、邦題となる『イエス・キリストは実在したのか?』ではいくらなんでもあんまりだと思ったからだ。原題の”ZEALOT”は、「ユダヤ教の熱狂的信者」のことを意味するが、本の内容に即していえば「革命家イエス」という題が相応しいかも知れない。

 

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この本は、イエスを「信じよ」という「宗教本」ではない。
エスが生きた時代と等身大のイエスを、福音書や当時のユダヤやローマの資料から浮かび上がらせようとする「史書」だ。

「信じる」というバイアスのかかった福音書から距離をとり、他の資料を合わせて読み、類推することによって、そこから立ち上がってくるイエス像に迫ろうとする。
だから、歴史が好きな人にとって、歴史上のイエスはどのような人物だったのかを知るには格好の歴史書かも知れない。

エス及び彼に付き従った人々は、ユダヤ教の過激な一派に過ぎず、「キリスト教」を立ち上げたわけではない。イエスの死後、ローマ帝国内に布教しようとしたパウロエルサレムに留まろうとした一派がいて、エルサレムにいた一派(主流派)はローマ軍に滅ぼされ、ローマにパウロが残ったために世界宗教となる「キリスト教」が生まれた。
この本は、歴史の実像に迫るとはどのようなことかを教えてくれる。
それは、無批判に「信じる」ことでも、政治的に「利用する」ことでもない。

下記4冊は、すでにブログ記事でご紹介していますので、内容はリンク先をご覧になって下さい。

3.塩野七生『皇帝フリードリッヒ二世の生涯 上・下』新潮社(2013年12月)

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もう塩野七生さんは歴史本は書かないのかしら、と少し寂しい思いをしています。彼女の歴史上の師が確かマキャベリだったから、ここらで『フィレンツェ』でも読もうかしらと思っているのですが、その前にトマ・ピケティ『21世紀の資本』が出版されたので、並行して読もうかしらと新年度計画しています。

4.リサ・ランドール『宇宙の扉をノックする』NHK出版 (2013年11月)

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今年はあまり科学書は読めなかったのですが、読んだ中ではこの本は外せませんでした。
子供用に書かれたホーキング博士と娘さんの共著3部作『宇宙への秘密の鍵』『宇宙に秘められた謎』『宇宙の誕生』(岩崎書店)は、小学生4年生以上なら内容的にも楽しめるものと思います。科学的データは別枠になっており参照するのにも便利。

5.下記2冊をあげておきましょう。
竹内洋『大衆の幻像』中央公論新社 (2014年7月)
鹿島圭介『警察庁長官を撃った男』新潮文庫 (2012年7月)

monmocafe.hatenablog.com

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先に書いた『永続敗戦論』もそうなのですが、政治哲学、社会思想の分野にも面白そうなのがあります。
現在、小熊英二『〈民主〉と〈愛国〉』という800ページ超の巨大本を読んでいるのですが、同じ著者の『1968』というこれも巨大本2冊もので、面白そうなのでずっと前から読みたいと思っています。

本当の意味で日本人はあの戦争の総括をしておらず、現在の様々な問題もそこに起因しているんだろうなと思わずにはいられません。
「封建遺制」の維持、無責任体制の継続、社会の組織も民衆の意識も、どれも「先進国」には程遠いものと思われてなりません。

それでも、『永続敗戦論』を書いた白井聡氏のような人がいることが救いのような気がします。きっと彼のような論客はマスコミには出てこないし、呼ばれもしないと思いますが・・・。

 

最後に今年読んだ本の一覧表を載せておきます。
今年ももうあとわずか、あなたの心にはどんな本が残ったでしょうか。

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(注)表中の項目説明
・「物理冊数」;分冊も1冊としてカウント。
・「論理冊数」;物理的に複数冊でも論理的に1冊を構成する本は1冊とカウント。
但し、佐藤賢一フランス革命』など長編ものは巻単位「論理冊数(=物理冊数)」でカウント。
・「分類」;便宜上の適当な分類。
・「評価」;もちろん主観的評価。上から「☆」⇒「◎」⇒「○」⇒「 」⇒「×」の5段階。