遥かなる「知」平線

歴史、科学、芸術、文学、社会一般に関するブログです。

2013年 読書総括

(追記 2013.12.31)
12月19日~31日までに、さらに2冊読みましたので、一覧表を再記載しました。2冊とも上・下巻の2巻本なので、「論理冊数」はそのままで、「物理冊数」のみカウントアップしています。

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ローマが偉大になれたのは征服によってではなく
同盟市を護ることによってである

キケロ

国が尊敬を集めるのは、
それが支持し護ろうとするものによってであり、
反対しているものによってではありません。

個人を判断する基準も、
その人物が何に反対しているかではなく、
何を支持し護ろうととしているかです。

アメリカは民主主義を、人民の自主的決定を、
支持し護ろうとします。
われわれは自由を求めます。正義を求めます。
トム・クランシー 『大戦勃発』 新潮文庫


12月はまだ10日あまり残っていますが、今年読んだ本の総括をしてみましょう。
物理的には55冊の本を読みました(論理的には47冊)。
2013年の読書一覧をこの記事の最後に載せておきましょう。
これまでの記事でも何冊かご紹介しましたが、今年はなかなか読みごたえのあった本が多い一年でした。
あくまでも個人的な趣味なのですが、ベスト5をあげておきましょう。

1.ティーヴン・グリーンブラット 『1417年、その一冊がすべてを変えた』
柏書房 2012年12月)
原題は’THE SWERVE How the World Became Modern’、そのまま訳せば、「『大いなる逸脱』世界はいかにして近代となったのか」となる。

 

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ルネサンスは、古代ギリシャの再発見から生れたとは一般的な認識だが、しかしいったいどのようにしてか。
1453年にビザンチン(東ローマ)帝国がトルコ帝国によって滅ぼされ、ギリシャ研究者たちが大挙して西欧へ移り住んだのも大きな要因とされている。メディチ家がアカデミアを作って彼らを支援したことはよく知られている。

しかし、近代は一冊の本の発見によってもたらされたというのだ。
ルクレティウスが2000年前に書いた『物の本質について』という一冊の写本の発見によって、キリスト教が支配する価値観から、ルネサンスを経てシェイクスピアニュートンらの活動につながり、そして近代への道が拓かれたという話だ。

西欧各地の古い教会の書庫から、ギリシャ時代の写本を求める一群の人々がいた。いわゆる「ブックハンター」。ここで語られる物語は、そのなかのバチカン教皇庁の秘書官も務めたボッジョ・ブラッチョリーニという最も偉大なブックハンターの『物の本質について』発見の物語である。

2000年も前の古書を探索し収集するあくなき執念、必ずしも本人にその意味が分かっていたとは思えないが、結果的に当時社会を支配していた教会的価値観からの「逸脱」が、物事をありのまま見つめる近代的精神へつながっていったとは言える。
その契機となったという本の発見は、私たちの歴史ミステリー探求の好奇心を刺激する。

2.秋山敏郎 『ダ・ヴィンチ封印 ≪タヴォラ・ドーリア≫の500年』
論創社 2013年9月)

 

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イタリア・フィレンツェパラッッォ・ヴェッキオという建物の中に「500人広間」という、フィレンツェ共和国時代の「国会議事堂」がある。この広場の壁には現在ヴァザーリの壁画が描かれているが、よく知られているように、そこにはかつて共和国時代にダ・ヴィンチミケランジェロによって壁画が描かれることになっていた。が、いずれも未完成のまま、その壁画はヴァザーリのそれに取って代わられた。

ダ・ヴィンチが描いたのは「アンギアリの戦い」なのだが、現在ではルーベンスの模写で僅かに知られる。あるいは、これも誰かの模写として「ダヴォラ・ドーリア」と名付けられた一枚の板絵でほんの一部が知られているだけである。
ところが、この「ダヴォラ・ドーリア」こそが、ダ・ヴィンチの真作で、一時は日本の美術館にあった、というのだ。

マキャベリチェーザレ・ボルジア、そしてダ・ヴィンチ、なんとも魅力的なこの3人の関係を歴史背景に置き、「ダヴォラ・ドーリア」の謎を解き明かしていく。この内容は、いずれ連載している「ダ・ヴィンチの生涯」でご紹介するつもりだが、調査、検証、推論、仮説と、読者をうならせるなかなかの力作となっている。

3.船橋洋一 『カウントダウン・メルトダウン 上・下』
文藝春秋 2012月12月)

この本は、前に記事でご紹介しました。

monmocafe.hatenablog.com


若杉冽『原発ホワイトアウト』と共に、教訓に満ちた大作です。
与党は選挙前、「電力のベストミックスを求める」と言っていたはずが、いつのまにか原発は、欠くことのできないベースとなる電力になってしまいました。
更に、独立性の高いはずの原子力規制委員会に対する監視強化を政府は考えているようです。委員会への圧力、委員の交代を通して、政府のコントロール下にこの委員会を置いていくことになるでしょう。

4.イアン・トール 『太平洋の試練 上巻、下巻』
文藝春秋 2013月6月)

これも既に記事でご紹介しました。

monmocafe.hatenablog.com

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隣国と緊張が高まる昨今の状況を比較しつつ、様々な教訓を残しながらも、アメリカと全面的に戦った日本の姿を是非ご覧あれ。できれば百田尚樹『永遠のゼロ』を合わせてお読みになって頂ければと思います。

更に、もし杉山隆男『兵士は起つ』土屋武昌『日本防衛秘録』をお読みになった方は、3.11等の災害派遣を通じて、かつて「憲法違反の軍隊」と揶揄された自衛隊が「民主国家の実力組織」と認識され、日本の安全保障上、なくてはならない組織であることを、戦前の「天皇の軍隊」との対比で理解できるのではないでしょうか。

 

5.NHKスペシャル取材班 『Human なぜヒトは人間になれたのか』
角川書店 2012年1月)

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人間の「心の進化」を扱った、とても珍しい探究の書になっています。番組は見られなかったのですが、人間はいかなる生物なのかというテーマを、考古学、心理学、遺伝子学、脳科学、経済学の様々なアプローチから人間という生物に迫ろうという試みになっている。
大規模火山噴火、寒冷化、温暖化、大洪水といった環境変化をいかに克服してきたかは、人間の心の進化と無関係ではなく、ホモサピエンスの20万年の歴史の進化を脳内に蓄積しながらも、対立・紛争の反面、協力・協調もまた人間の特質だから、これからの「心の進化」次第で人間の歴史も変わるのではないか、そう思わせる本になっている。
隣国の政治指導者たちに、思わず勧めたくなってしまう本だ。


2013年の読書一覧は下記表になります。

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(注)表中の項目説明
・「物理冊数」;分冊も1冊としてカウント。
・「論理冊数」;物理的に複数冊でも論理的に1冊を構成する本は1冊とカウント。
但し、佐藤賢一フランス革命』など長編ものは巻単位「論理冊数(=物理冊数)」でカウント。
・「分類」;便宜上の適当な分類。
・「評価」;もちろん主観的評価。上から「☆」⇒「◎」⇒「○」⇒「 」⇒「×」の5段階。